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02.

――あぁっ……ふぅ、………やぁ…ッ」  どうしてこうなった。ネオンが煌めく眩しいホテル街でもなく、その先を抜けた高層マンションが建ち並ぶ都内の一角。うちの会社が運営してるホテルだから、と見るからに高級なスイートルームに通された。それから、普段味わったことの無い贅沢な夕食をルームサービスで提供され、晩酌だと言って琥珀色に輝く美しいシャンパンを勧められた。  と、言う所までは覚えている。しかし、何故俺の股の間に彼の顔があるのかなんて、皆目見当もつかない。少し酔いは覚めたが、まだぼんやりとする思考の中で、視線を下半身へと下ろす。ぢゅ、と水音を立てながら俺の陰茎をぱっくりと咥えているのは先程まで晩酌をしていた彼本人で間違いはない。  スラックスは下着ごと取り払われていて、大きく脚を開かれている。閉じようと試みるが、そこを強く吸われてしまえば力が入らなくて、酒のせいもあり抵抗できずにいた。 「んぁっ……アッ、…ひっ……あっ…あぁっ――――ッッ」  裏筋や先端、弱い所を的確に攻められて呆気なく達してしまった。 「っぁ……はぁ、ぁん…ッ」  最後の一滴まで搾り取るようなそれに自然と腰が揺れる。気持ちが良い事しか考えられなくて、頭が真っ白になっていくようだった。生理的な涙が滲む視界に、口の端に付いた精液を舐めとる彼の姿が映る。あまりにも扇情的で、獣のような情欲に歪んだ瞳は、熱くて今更ながら逃げられないと悟った。 「……たちばな、さん…っあ」 「君には颯汰って呼ばれたいな」 「そうたさ、んぁあ…っ!…ひぅっ……あっ!だめ、そこ…っ」  三ヶ月セックスしていないとは言え、一人で処理するのは別だ。すっかり受け入れる事に慣れてしまっているそこは、容易く指の侵入を許してしまう。 「君はこんなにも容易く、男に体を許すのか?」 「やぁぁ…ッな、に……ひぁ、ぅああッ!」  潤滑剤に濡れた指が遠慮なしにナカを掻き回す。呆気なく見つかった一番の弱点を抉られて、強過ぎる快楽がじくじくと腰を溶かしていく。全身が強ばって逃げるように腰が引けるが、がっしりと掴まれてしまっていてそれは敵わない。  シーツをキツく握り締めて、意図せず生白い首を晒してしまう。熱い手が、体温を分け与えていくようにゆっくりと肌を滑る。緩いシャツを胸元まで捲られて、すっかり立ち上がっていた胸の尖りを優しく押し潰される。痛みを感じない程度に、的確に快楽のみを引き出すその手付きは俺の思考をかき消すのに充分だった。 「上気したキメ細かい白い肌も、情欲を掻き立てられるその色っぽい表情も。いったい今まで何人の男に見せてきたんだ?」  彼は依然として、冷静に耳元で低く問いかけながら攻めを怠らない。こんなにも一方的に高められるセックスは初めてだった。 「ぁあ…ッ…あっあっ、……だめ…ッ……またいっちゃ、…〜〜〜ッぁ゛!」  チカチカと目の前がスパークする。はくはくと浅い呼吸を短く繰り返しながら、脱力した体がベッドに沈む。絶頂の余韻がなかなか抜けないままぼんやりと天井を眺めていると、口の端に柔らかい何かが触れる。それが彼の唇だと理解するには暫く時間が掛かった。 「……可愛い」 「…ッ」  はぁっ、と熱い吐息を感じて淡い栗色の瞳に射抜かれる。たっぷりと吐息を含んだ甘い囁きにずくんと腰が重たくなって、この先を知っている体は疼いて仕方ない。 「……ぁ、……」 「……本当は最後までするつもりは無かったんだけど…」  スラックス越しに後孔に感じる硬さと熱は紛れもなく彼が興奮しているという証拠で。もうすっかり思考が蕩けきっていた俺は、擦り付けるように腰を動かした。焦らされるのは嫌いだし、セックスは最後までしないと物足りない。 「ごめんね、俺が限界だ」  堅苦しくきっちりと締められたネクタイを緩めて、薄らと汗で張り付いた前髪を掻き上げる。そうしてカチャカチャと少し急いてスラックスのベルトを外す音が聞こえて、期待から熱い吐息が漏れた。 「いい、からっ…はやく…っ」 「…ほんとにたまらないな」 「…――ァあ゛!?…う、そ…ひぃ、あぁッ!…おっきぃ…――ッ!!」  ずん、と勢い良く最奥まで届いておられもない嬌声が口から溢れる。ぎちぎちと腹を満たす質量は今までに経験した事がないほどで、気を抜けば呆気なく意識を持っていかれそうになる。未知の快楽にどこかに掴まっていないとおかしくなってしまいそうで、思わず目の前の逞しい体に必死でしがみ付いた。 「…ぐっ………はぁっ」  余裕に溢れていた彼の快楽に歪む顔は色っぽくて、もっと知らない顔を見たいと思った。その唇に触れたくて、けれどそれをしたらもう戻れなくなるような気がして。  ゆったりとした律動は段々と切羽詰まっていくようで、彼の限界を知らせる。頼りなく間で揺れるだけの陰茎はだらしなく白濁を垂れ流していて、もう何度達したのかわからない。ずっと気持ち良くて、彼が外で果てたのを知るとぷつんと意識が途絶えた。

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