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08.

 衣擦れの音と、互いの吐息だけが空間を占める。彼と七つ違いだという事も、この近くのビルで務めるサラリーマンだという事も、つい先程知った。高層ビルの最上階、絵に書いたような贅沢な部屋は彼のものだと言う。 「…あの時みたいに、“織”って呼んで欲しいです」 「ああ。…いいかな、織」  鼻と鼻が触れ合いそうな距離で、彼の吐息を間近で感じる。深い鼈甲色の瞳が何時になく揺れ動いて、困ったように眉を下げていた。 「颯汰さん」  急くように彼の名前を呼べば、それ事飲み込むように唇を重ねられた。互いの唇の感触を楽しむように何度か啄むような幼いキスでさえ、脳が蕩けていくような感覚だった。思っていたよりも厚い唇だ、なんて考える暇もなくねっとりと舌を絡められて、甘く吸われる。この手のキスには正直あまり慣れていない。歯列を割って、上顎をなぞられるとゾワゾワとした痺れが背筋を伝う。 「ふ、……ぁ…は、んぅっ…」  待ち侘びた感覚に全身が歓喜するように、期待から疼いた。たまらず首筋に添えられた手を掴んで、快楽から逃げるように身を捩った。息苦しさからそっと彼の胸を押せば、一度離れるがすぐにまた繋がった。流れ込んでくる唾液を嚥下するだけで精一杯で、どちらの物かわからない飲み切れなかった唾液が口の端を伝う。彼の巧みな舌使いに翻弄されるまま足腰の力が抜けていく。やがて立てなくなった事を察した彼に腕を引かれて、あろう事か抱き上げられる。所謂姫抱きと言うやつで、軽々と持ち上げられた事に少しショックを覚えたが、今はそれどころじゃなかった。  はくはくと短い呼吸を繰り返しながら優しくベッドに下ろされる。彼はスーツの上着を脱いでネクタイを緩めながら俺の上に跨った。先程のキスのせいで唾液に濡れた唇があまりにも扇情的で、思わず目が離せなくなった。薄暗い照明を反射した鼈甲色の瞳に吸い込まれるようにして、再び唇が重なった。 「んぅ、…んっ……んぁ」  後頭部を支えられたままゆっくりとベッドに寝かされる。閉じようとしていた脚の間に彼の体が割って入って、行き場のない手は捕まってベッドに縫い付けられる。その間も濃厚なキスは終わらないまま、舌が麻痺するのではないかと思う程吸われ続けた。 「――ぁッ、」  開いた脚の間に陣取った彼の膝が既に熱を持っていた俺の昂りに触れる。それはきっと意図しての事で、衝撃で思わず口を離してしまう。唇がふやけてしまいそうだ。キスで昂った体はスラックス越しの僅かな刺激にでさえ過敏に反応して、腰が引けてしまう。彼は物足りなさそうに口の端に触れるだけのキスをして、それから顎、首筋、鎖骨と丁寧にキスを施していく。  擽ったくて、けれど愛されていると感じるそれに嫌でも神経を持っていかれる。触れられる度に好きだと言われているようでむず痒い。たまらなく嬉しくて、幸福感に満たされている。 「…しき」  耳元で甘く囁かれると別にそこが弱い訳じゃないのに、きっと彼の声に弱いらしい。意図せず嬌声が漏れた。緩いシャツの下から侵入した大きな手が大胆に肌を撫でる。余すことなく撫で回して、ゆっくりと上がってくるそれに期待から胸の先端はすっかり立ち上がってしまっていた。シャツ越しでも目視できる程形を変えているそこが恥ずかしくてきゅっと目を瞑ると、つつくように刺激されて悩ましい声が漏れてしまう。 「んぁッ…は、んん…ぅ」  立ち上がったそこを押し潰されて、軽く摘み上げて、クリクリと捏ねるようにされるとたまらなくて、思わず背中が浮いてしまう。もっとと強請るようなそれに気を良くしたらしい彼は、薄く色付いた胸の先端に吐息がかかる程顔を近づけた。これから来る快楽に焦れて息を飲むと、程なくして生温かい感覚に包まれる。  彼の咥内は熱くて、肉厚な舌で転がされるとじりじりと痺れるような快楽が腰を重たくしていく。ぴちゃ、ぢゅ、と響く水音のいやらしさは彼の美貌にはあまりにも似合わない。痛いくらいに張り詰めていた下半身から、くちゅりと濡れた音がしたような気がした。 「あぁッ…!…や、そこ…っ」 「スラックスに滲んでる。初めての時も思ったけど、凄く敏感だよね」  そっとスラックス越しに撫でられて、咄嗟に手を掴む。今そこを少しでも刺激されたら達してしまいそうな程には昂っていたからだ。だってこんなに愛のあるセックスは初めてなのだ。 「あっ、ひ、だめ…っ」 「大丈夫、力抜いて。俺に全部委ねて」  処女でもあるまいし、今更恥ずかしいだなんておかしい。俺の願いとは裏腹に、彼は慣れた手付きで下着ごと取り払ってしまう。予感通り、先走りでぐっしょりと濡れそぼっていたそこをゆるゆると二、三度扱かれただけで呆気なく達してしまった。  おかしい、体が変だ。まるでこの人の手によって作り替えられていくようで、怖くもあった。 「はぁ、っ……んんっ」 「…一度イったからかな、ここ…もう柔らかい」 「ひあっ、あっ…う゛〜〜ッ」  先走りと白濁で濡れそぼったそこにすんなりと侵入した指が浅瀬をかき混ぜるように撫でる。もっと奥を触って欲しくて、意図せず腰が揺れた。 「はっ…ぁ、もう…っ、いれてください…っ」 「…君に無理させたくないんだ」 「んぁあっ…も、いいから…ぅあ…ッ」  俺が手を伸ばせば、急いたようにスラックスのベルトを緩める音がする。いつ準備していたのだろうか、ポケットから取り出した避妊具を口で破いて器用に装着する。腹に付きそうなくらい反り返ったそれは、血管が浮き出て赤黒い。俺の二回りも大きいそれから目が離せなくなって、早く受け入れるたくて堪らない。今一番気持ちいい所をそれで擦られたら、と想像するだけでイってしまいそうだ。 「――――あ゛ッ!?ひ、〜〜ッ!」  一気に最奥まで埋め尽くす質量に声にならない声を上げる。すぐに律動は始まって、ぽってりと腫れたしこりを何度も押し潰される。腰が溶けてしまいそうな強烈な快楽に、思わず必死で彼に手を伸ばした。彼は優しく応えてくれるも、腰の動きは止まらないまま肌がぶつかり合う生々しい音が響く。  既に二度達していたそこは、たらたらとだらしなく白濁を零すだけで、もう何度イったのかわからない。ずっと気持ち良くて、ずっとイってるみたいだ。 「あ゛っ、あ、…ぁン…ッ!」  開きっぱなしだった口に彼の唇が重なって、目の前がチカチカとスパークした。  拙い舌遣いで必死にキスに応えていると、見上げる彼は汗でじっとりと張り付いた前髪を荒っぽく掻き上げた。 「ぁあッ…も、や、…ぁひ、っ!」 「しき、…っ」  じわじわと上り詰めてくる快楽の波は未だに慣れない。何かに掴まっていないとどうにかなってしまいそうで、彼の背中に爪を立ててしまった気がする。ビリビリと目の前に火花が散って腰の震えが止まらない。絶え間なく白濁を垂れ流す先端からは、勢いのない白濁がゆっくりと溢れていく。長い絶頂にビクビクと体を震わせながら、ほんの数秒後に意識を手放した。

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