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2章-1.母子手帳と胎児ネーム
前回心拍を確認してもらって、今日のエコーでは頭と身体がどこなのかわかる形になっていた。
エコー写真を見ながら俺は感動した。
こうなると生き物って感じする…すごい。この子がお腹の中にいるんだぁ。
礼央もきっと喜ぶな。
少しずつアルバムにエコー写真が増えていくのが嬉しい。
ただ、つわりは段々キツくなっていて、口の中に何か入ってないと気持ち悪い。
だから外に出る時もいつも飴を舐めていた。
なんか、唾が苦いんだよね…。
家事も前よりこなせなくなっていて、午後は昼寝の時間をとるようになった。
やたらと眠いのだ。
色々調べたところ、食べちゃいけないものや、摂らないといけない栄養があって妊婦さんって大変なものなんだなと思った。
最近葉酸の入った飴をよく舐めてる。つわり軽減と栄養摂取を兼ねられるんだよね。
生のお肉はダメらしくて、ステーキもレアはいけないからちゃんと焼いたものを食べないといけない。
ミディアムレア位が好きなのでちょっと悲しい。
お酒は元々そんなに飲めないから、禁酒も苦ではなかった。
コーヒーは毎日飲んでいたから全く飲まないとストレスになるのでたまに飲む。でも普段はノンカフェインのコーヒーを飲むようにしている。
意識して探すようになるとノンカフェインの紅茶などもフレーバーが結構多くて楽しい。
妊娠すると、妊婦さんに目が行くようになった。最近多いのかな?と思ったけどそうじゃなくて自分が妊娠したから気になってるだけだと思う。今までは目に入っても認識してなかったというか。
エコー検査の後、医師に母子手帳を貰うように言われたので区役所に行ってきた。
母子手帳の他にマタニティマークというのをくれたから一応ボディバッグに付けてみた。
ちょっと恥ずかしいけど、俺は男だしぱっと見まだ妊娠してるようには見えないので表示する。事故で救急車に乗る場合などに妊娠中だとすぐにわかった方がいいから。恥ずかしさより、お腹の子優先だ。
マタニティマークを付けて電車に乗ったら、隣に座った年配のご婦人がニコニコと話しかけてくれた。
「あらぁ、お兄さん赤ちゃんがいるのね。何ヶ月?まだお腹は出てないわね」
外で知らない人に話しかけられることなんてサラリーマン時代はまず無かったので最初ギョッとした。
これが赤ちゃんの力なのか。
「あ、あの…まだ3ヶ月で…」
ドキドキして声が掠れた。恥ずかしい。
「そうなの~。いいわねぇ」
ご婦人はただニコニコと俺のお腹を眺めていた。
何と返せばいいかわからなくて俺はどうも、と言って笑顔を返した。
気のせいかもしれないけど、向かいの奥さん達もにこやかにこちらをみてる気がする。
仕事で常にピリピリしていた時は考えられない状況だった。
礼央の帰宅後にこの話をしたら笑われた。
「元々の美耶さんて綺麗すぎてなんか近寄りがたかったんだよね。勤めてるときに僕は会ってないからなんとも言えないけど、仕事で気を張ってて近寄るなオーラ出してたのかもしれないね。でも妊婦さんになって雰囲気柔らかくなったんじゃない?」
「そっか…とにかくびっくりしたよ、知らない人がいきなり話しかけてくるんだよ?」
「僕はたまに道聞かれたりしますよ」
「俺そんなことほとんどなかったから…何て返せばいいかわかんなかった」
「慣れますよそのうち」
Ωの割合がそもそも低いので、男性Ωの妊婦も珍しいのかその後もちょくちょく奥様方に声を掛けられた。
皆優しくて好意的だった。
仲間っていうか後輩みたいな感じなのかな?
「それにしても、赤ちゃんもうこんな人間ぽくなってきたんですねぇ」
エコー写真を眺めて礼央が頬を緩める。
「そういえばネットで見たんですけど、胎児ネームっていうのを決めると良いんですって。お腹の中に居る間だけの愛称として」
「へー!赤ちゃんって呼ぶよりいいかもね」
「何かいい案ありますか?」
「え~なんだろ~~」
「まだ男か女かもわかんないですしね」
「ん~、フクちゃんとか」
「フクちゃん?」
「幸せになって欲しいから。幸福の福。コウちゃんでもいいし。サチちゃんでもいいか」
「いいですね。じゃあ美耶さんの最初の直感で出たフクちゃんにしましょう」
礼央はおーいフクちゃーん、と俺のお腹に呼びかけている。
出産後のデレ具合が想像できる気がして俺はクスッと笑った。
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