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2章-2.妊娠9週でのちょっとしたハプニング
妊娠9週目のこと。
毎日つわりで具合が悪いのはいつもどおりだったのだが、夕方にトイレに行ったときにほんの少しだが出血していた。
「え…うそ…なに?」
前回出血したことを思い出して俺は青くなった。
まだ礼央が帰ってきていなくてすごく怖くなって電話してしまった。
礼央は落ち着いて先生に電話しようと言ってくれて、そんなことに気づかないくらい自分が動転していたのにも驚いた。
そうだよな。礼央じゃなくて先生に電話しないと…
クリニックに電話すると、医師が状況を聞いてくれて、血の量も多くないしこの時期出血することもあるからそこまで不安に思うことは無いけれど心配なら明日診ましょうと言ってくれたので念の為通院することにした。
電話で医師の説明を聞いたら少し気が楽になった。
でも、前回出血して初めてクリニックに行ったときのことをどうしても思い出してしまう。
「この前はお腹が痛かったけど今は全然痛くないし…。フクちゃん大丈夫だよね?」
俺はお腹を撫でながら声を掛けた。
自分のことじゃなくて、自分のお腹の子のことってこんなに心配になるものなんだな…
帰宅した礼央に先生から聞いたことを話した。
すると俺の身体を抱きかかえて宥めるように言った。
「きっと大丈夫だから落ち着いて。ママが不安だとフクちゃんも心配になっちゃうよ」
「うん…」
翌日礼央が午前中休みを取ってくれてクリニックへ送ってくれた。
礼央はαなので中に入るには事前予約と特別な手続きが必要なため、車で待っていてもらう。
いつもの医師がエコー検査してくれて、いつもと変わりないことを教えてくれた。
「うん、赤ちゃん元気ですよ。初産だし心配になるよね。あまりにお腹が痛いとかもっとたくさん出血した場合はまた受診して下さい」
俺は胸を撫で下ろした。
――よかったぁ…
車に戻った俺の顔を見て礼央もホッとしたようだ。
「その顔は大丈夫ですね?」
「うん、なんともなかった。ちゃんと心臓動いてた…よかった…」
「よかったです」
フクちゃんが無事なのがわかったら急につわりの症状が気になってきた。
来るときはなんともなかったのに、車の振動が気持ち悪い。
もともとそんなに車酔いするタイプじゃなかったけど、妊娠してからは長時間車に乗っていることができなくなっていた。
飴を舐めようと思ったらバッグに入っていない。
「あ、慌てていつもの飴持って来るの忘れちゃった」
「あれ、じゃあコンビニでも寄りますか?」
「いや、早く家で横になりたいかな…」
「じゃあそのまま帰りますね」
結局昨夜は心配すぎてよく眠れなかったから、今になって眠気が襲ってきた。
「ポテト食べたい…」
そしてまたポテト熱が再燃していた。
しかし礼央に止められる。
「この前食べてましたよね。ダメですよ」
「でも食べたいんだもん、いいでしょ食べたいって言うくらい。食べられないものばっかりなんだもん!」
気持ち悪さと眠さでつい強めの口調になってしまう。
「あ、出た美耶さんの可愛い妊婦様!」
ネット情報なのか、妊娠しているからといって傍若無人になるのを"妊婦様”というんだと礼央が以前嬉々として教えてくれた。
それでたまに俺がイラついていたりすると"妊婦様”と言ってからかってくるのだ。
俺が怒ったりしてもニコニコして受け流してくれるのは有り難いけど、なんか腹立つ…
「可愛くない!」
俺は助手席で腕組みして目を閉じた。
「ごめんね美耶さん。怒った?」
「……」
「おーい。寝ちゃった?」
「寝てない」
「ポテト買っていきます?」
「……うん」
結局ポテトを買って家に帰った。
俺がポテトを食べてるのを礼央は面白そうに見ている。
「美耶さんにすっごく似合わない食べ物ですよね。フライドポテトって」
「うるさい。あげないぞ」
「あはは、取ったりしないから安心して」
9週でつわりがピークの時期なので、食べられるものが限られていた。
しかも調子に乗って食べると吐き戻してしまったりもする。
水も飲めないという人もいるらしく、俺はそこまでではないからこれでもマシなのかな?
正直これが11週くらいまで続くと思うとかなりしんどい。
妊娠したのは嬉しいけど、これをまた耐えないといけないのかと思うと2人目3人目と産むママってすごいなと本気で尊敬する。
この日礼央は午後に打ち合わせだけ顔を出して早めに帰宅し、ハウスキーパーが作った料理を温め直してお皿に盛り付けるのをやってくれた。
「ありがとう礼央。朝はイライラして八つ当たりしてごめんね」
俺は自分の酷い態度を反省していた。
ただ家に居るだけなのにご飯の支度もできないし、こんなんじゃ礼央に嫌われてしまう。
「え?良いよ全然。なんか頼られてるって感じで僕は嬉しいです。甘えてくれてるんだなーって♡」
「え?」
礼央の感覚には度々驚かされる。
桐谷と一緒に暮らしてた時間が長いので、こちらの機嫌が悪ければあちらもどんどん不機嫌になるのが普通だった。
まさか俺が八つ当たりしたことを喜ばれるとは…
礼央はにこにこしながらご飯を食べ、最後は洗い物も全部してくれた。
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