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2章-5.礼央の両親に会う(1)
安定期になり、そろそろ礼央のご両親に挨拶しに行こうということになった。
俺もずっと気になってはいたのだ。
甲種αである礼央の妻になるにあたり、不妊である事が申し訳なくて顔を見せられていなかった。
でも今はフクちゃんもお腹にいてくれる。俺はお腹の膨らみを撫でた。
実はフクちゃんの性別がやっとわかった。向きが悪くてなかなか先生が確定してくれなかったんだけど、前回のエコーでやっと付いてるのが見えた。
つまり、男の子だった。
どちらが良いとは思ったこともなかったけど、自分が男だし礼央も男なのでちょっと安心した。女の子のことはよくわからないし両親が男同士の夫夫 だと女の子の子育ては大変な事が多そう。自分の母親を頼ることができればいいけど、うちの母親はアレだしなあ。
とはいえこれでやっとベビーグッズが本格的に揃えられる。
これまで、男女どちらにも使えるデザインの物しか買えていなかった。でも今度からは男の子向けのを選べば良いな。
さて、そんなこんなで礼央の実家に行く日になった。
俺は着ていく服をどうするか昨夜遅くまで悩んでいた。
家ではもうお腹を締め付けない楽な服装ということで、女性用マタニティウェアのストレッチパンツやレギンスにオーバーサイズのTシャツやトレーナーというゆるゆるの格好ばかりしていた。
本当は義実家に初訪問するのでスーツを着たいところだが、元々持っていたスーツはもうファスナーが上がらない。
なので急遽ウエストがマタニティ仕様になっている女性もののスラックスを買ってきた。トップスはなるべく上品に見えるオーバーサイズのサマーニットを着ることにした。
シャツにした方がきちんとして見えるし男らしいかなと思ったけど、大きめのシャツでもお腹がなんとなく違和感あってピンと来なかった。
「礼央~!これで良いかな?シャツの方がいい?ねえ、聞いてる?」
「んん~?まだ悩んでたんですか?美耶さんなら何着ても綺麗だからどれでもいいですよ」
礼央に聞いてもダメだ…
「もう、俺がご両親に初めて会うってわかってる!?」
「わかってますって。でもうちの親、美耶さんとこみたくかしこまった家庭じゃないから本当に普段着でいいんですよ。いつものトレーナーでいいのに」
「トレーナー?!そんなわけいかないだろ」
「えー、でも僕も家ではスウェットとかでしたよ」
そういう問題じゃない!
初めて義両親に会うのにスウェットで行くやつがいるかよ。
「ああ、またイライラしちゃったぁ。ダメだダメだ…」
俺が頭を抱えてたら礼央に背中を撫でられた。
「美耶さーん落ち着いて~。イライラしてもいいし僕にあたってもいいからね。でももう行く時間だよ。準備はいいの?」
「あっ!うそ!待って、まだ髪の毛セットしてないから!」
「別にそのままでも良いですよ…」
「いいから、ちょっとだけ待って!」
出掛ける前にひと騒ぎして、なんとか時間に間に合うように礼央の実家に到着した。
俺は緊張でまたつわりがぶり返したみたいに具合が悪くなってきた。
「礼央…どうしよう気持ち悪い…もうダメかも、お父さんとお母さんにダメな嫁って思われる…」
駐車スペースに車を入れたところで礼央が俺の背中を撫でさすってくれる。
「美耶さん、そんなことありませんて。緊張しすぎですよ。うわ、ちょっと泣いてるんですか?!」
「ぅう…やっぱり帰る…」
「参ったな…あれ?あ、母さん」
――え!?
俺は驚いて顔を上げた。すると車のすぐ近くで小柄な女性がこちらを伺っていた。
「ひぇっ」
やばい、いきなりこんなみっともない所を見られるなんて。
俺は血の気が引いてさらに具合が悪くなってきた。
礼央が車のドアを開けた途端お母さんの声が聞こえた。
「礼央、あなた美耶さんのこといじめちゃダメじゃない。美耶さん大丈夫?あら、具合が悪そうね。すぐに中で休んでちょうだい」
「ぅ…すみません…」
最悪だ――。
「客間にお布団敷いておくわね。礼央、美耶さん辛そうだから抱っこして連れてきてちょうだいよ」
「うん、勿論」
え!?いやいや、ありえないでしょ…
もうこのまま帰りたい。
でもこのまま車に乗ったら振動で吐きそう。
礼央のお母さんは家の中に入って行った。
「礼央…ごめん」
「え?何謝ってるの。はい、肩に掴まって」
本当に抱き上げられてそのまま客間の布団に寝かされた。
「気にせずゆっくり寝てね。ほら、もう泣かなくていいから」
ホルモンのバランスのせいなのかメンタルがすぐやられてしまい涙が出てくる。
義実家初訪問でろくに挨拶もしないまま布団に寝てるって…服装がどうとかいう問題じゃない。
「ママが泣いてたらフクちゃんも悲しいよ。ちゃんと休まないとダメだよ」
そうだ、俺が恥ずかしいとかそんなこと言ってる場合じゃなかった。フクちゃんがびっくりしちゃうからちゃんと落ち着かないと。
「うん、わかった。少ししたら起こして」
「うん。おやすみ」
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