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2章-6.礼央の両親に会う(2)

こんな状況で寝られないと思ったのに気づいたら寝ていたようで、礼央に起こされて目が覚めた。 妊婦の眠気ってすごい。 「美耶さん、体調はどう?」 「ん…ありがとう。落ち着いたみたい」 吐き気もないしもう起きられそうだ。 「ごめん、すぐにご両親に謝りに行かなきゃ」 「謝らなくて良いって、わかってるよ。母さんだって3児の母だもの」 礼央には姉と弟がいると聞いていた。 育児経験豊富なお義母さんならこの失態も許してくれるだろうか。 リビングに顔を出すとお義父さんはソファでテレビを見ていてお義母さんはキッチンに居た。 「あの、はじめまして。神崎美耶と申します。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。しかも初めてお邪魔するのにお布団に寝かせて頂いて…本当にすみません」 俺は頭を深々と下げた。 「あらあら、そんなの良いのよ。ほら、そんな姿勢で居たらお腹苦しいでしょう。さぁそこに掛けて?」 「すみません、失礼します」 「はは、美耶くん。そんなにかしこまらなくていいよ。取って食ったりしないから」 「お父さんったら変な言い方したら美耶さんがかえって怯えるわよ」 俺は勧められてソファに腰掛けた。 お義母さんがノンカフェインの紅茶を淹れてくれる。 「ごめんなさいね。まだ調子が悪いのに来てくれてありがとう。私たちも早く美耶さんにお会いしてみたくて」 お義母さんは優しく微笑んだ。小柄な女性だけど雰囲気は礼央に似ていた。 「あ、いえ!違うんです。最近はもうつわりもほとんどなくて調子良かったんです。今日は緊張しちゃって…」 「そんなに緊張しなくて良いのよ。もうここが自分の家だと思ってくれて良いんですからね」 「あ、ありがとうございます…」 礼央も優しいけど、お義母さんもすごく優しそう。 「礼央はちゃんと手伝いしてくれてる?この子ったら勉強ばかりしてたからあまり料理や掃除は得意じゃないのよ」 「あ、はい!それはもう。何でもしてくれます」 「それなら良かったわ。礼央、あなた仕事ばかりしてないで美耶さんのことちゃんと労ってあげなさいよ」 「えー、でも産まれてくる子のためにもたくさん仕事しないとって…」 「とにかく不安な時期なんだから、一緒にいる時間を増やしなさいよ」 お義母さんは俺のことをすごく心配してくれて、αの礼央よりΩの俺を優先してくれる人だった。 お義母さん自身がΩで、お義父さんはαだと言っていた。俺の母と同じΩ女性でも、こんなに考え方が違うものなのか。 俺の母ならとにかくΩはαの子を産むだけって考えだったからな… 具合が悪いならこのまま泊まってもいいのよと言われたけど、さすがに何の準備もしてきていないし丁重にお断りしてその日は帰宅した。 帰りの車中で俺は礼央に言った。 「お母さんすごく優しいね。びっくりした」 「そうですか?僕はなんだかあれこれお小言を言われましたけど…」 礼央は帰り際にも妊婦を労れとお義母さんに指示されていた。 今後お腹がもっと大きくなったら更に大変なんだから、と。 「あはは。とにかく俺なんかにあんなに優しくしてくれて…ホッとしちゃった」 「だから何も心配いらないって言ったでしょう?うちの親、あんな感じですから今後も頼って下さい」 「うん…よかった…」 「眠いですか?寝ていいですよ。着いたら起こします」 「うん」 俺は目をつぶってうとうとしながら考えていた。 礼央の家庭はあんな感じなんだ。実は自分が育ってきた環境が少々厳しかったので、子育てにも少し不安があった。 どうやって自分の子と接したら良いのかわからないというか… でも、礼央の家族を見て安心した。 俺が迷ってもきっと礼央がちゃんと導いてくれるって気がして。 優しいお義母さんと、物静かだけど頼りがいがありそうなお義父さん。俺達もあんな夫夫になって、フクちゃんが礼央みたいな優しい子どもに育ってくれたらいいなぁ。 信号待ちで停車したとき、礼央が俺の頭をそっと撫でた。 ちゃんと俺のことを気遣ってくれ、いつも見ていてくれる夫がそばにいるから安心して眠れる。 帰宅して夕飯の支度をしようとしたら礼央に座っているように言われた。 早速お義母さんに言われたことを実行しようとしているらしい。 「もう十分休んだから大丈夫だよ」 「いえ、だめです。座ってて下さい」 「でも先生も適度に動いたほうが良いって言ってたし」 「それは…じゃあ一緒にやりましょう」 そして結局2人でキッチンに立った。 礼央はお義母さんが言う通りあまり料理はできない。でも盛り付けたり洗い物などは積極的にやってくれる。 といっても俺も勉強とスポーツばかりやってきたから料理はあまり得意じゃなかった。結婚して家に居る時間が増えて色々やり始めた程度だ。 「いただきます」 しばらく黙々と食べていたら礼央が口を開いた。 「フクちゃんが産まれたら…実家にまた一緒に出向いてくれますか?」 「え?当たり前じゃない。フクちゃんと挨拶に行かないと」 「良かった。今日美耶さん泣いちゃったんで、もう行かないって言われるんじゃないかと思って…」 「そんな訳ないよ。ちょっとホルモンのせいなのか涙もろいだけだから気にしないで。というかあの失態はもう忘れてくれ」 「わかりました」 礼央はくすくす笑った。 「笑うなよ」 「いえ、すいません」 「まだ笑ってる…」 「はい」 俺もつられて吹き出した。 とにかく礼央の実家に無事挨拶ができて良かった。 あとは…俺の実家をどうするか、だな。

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