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第22話 4月2日 22:00 二周目 病みルート

 本当に、どうしてこうなってしまったんだろう。  快楽に溺れそうになる頭の隅で、俺は必死で考える。  きっと、選択肢。  どこで、俺は間違えてしまったんだろう……  心当たりの一つは、決起会だった。  響と音楽の話をすることに成功し、更に脚本を書き上げ、響のBGMを使うことも日辻に認めさせた。  そこまでは、良かった。  それから俺は考えた。  以前、俺は決起会で響が飲み過ぎないようにと気を配り結果自分が飲み過ぎてしまった。  だけど、どうやらそこで俺は告白だか何だか……とにかく、何かに成功したようだ。  だから、ここで俺は酔うのが正しい選択なんだろう。  そう考え、俺はなるべく早いペースでアルコールを摂取していた。  ビールを、水割りを、カクテルを。  途中から意識が曖昧になり、響がどれだけ飲んだんのかも気にならなくなってしまった。  結果、俺たちは二人とも――かなり酔っぱらってしまったらしい。  おぼろげな記憶を必死で振り返ってみる。  たしか、あれから俺たちは……公園に寄ったんだ。  相乗りしたタクシーから降りたはいいものの、したたかに酔っぱらった俺と響ではそのまま家に帰るのは困難で、途中にある公園の東屋で休憩することにした。  そこで、俺は――  まるで他人事のように、自分が言った言葉を思い出す。 「俺が響のことを――好きだからさ」 「――え?」 「愛してる……から、役に立ちたいし……守りたい。何としてでも……」 「先輩……」  それと同時に響の顔が酷く接近してくるのが見えた。  近く。  本当に、間近に…… 「……んっ」 「ん……」  いつの間にか、俺と響の唇は重なっていた。  俺の唇の中に響の舌が侵入し、荒々しく唾液をかき混ぜる。  俺も無我夢中でその舌に自身の舌を絡めた。  口の中に乱暴な音が響く。  そのまま、響は荒々しく俺の衣服を剥いでいった。 「……っ!」  思わず身を固くしてそれに抵抗しようとした。  いくら夜とはいえ、ここは公園だ。  東屋のベンチは街燈からは少し離れているから、影になって見えないかもしれないけれども……  いや!  いつの間にか流されそうになる自分の心を慌てて奮い立たせる。  ここは、まずい。  ここでは…… 「先輩……」 「あ……っ」  いつの間にか俺から唇を離した響は、今度は露わになった俺の胸へと口付けた。  酒で熱くなった身体に外の空気は冷たく、けれども響の舌はそれ以上に熱い。  ちろちろと音を立てて舐め上げる響の舌に、抵抗しようとした俺の気持ちが溶かされていく。  どうしてだ?  なんで、俺は響とここでこんなことをしているんだ?  頭の片隅で、僅かに疑問符が浮かぶ。 「……んっ」 「先輩……初めてとは思えませんね、その、反応……」  響の愛撫に体の力が抜けた所を、ベンチの上に押し倒された。  響は俺に馬乗りになったまま、下半身の衣服を脱がせる。 「あ……ぁ、それは……駄目……」 「本当の先輩は、そうは言ってないみたいですよ?」  響は小さく笑うと、俺の興奮した部分に乱暴に膝を押し付ける。 「ふぁ……っ」  直接感じる布の感覚に身を震わせれば響はそのままぐりぐりと膝に力を入れる。 「あ……っ、や、つよ、い……っ」  その刺激に思わず声をあげる。 「なら、これでおしまいにしますか?」  だがそんな俺に、響は残酷な選択肢を突き付けた。 「お、しまい……?」 「ええ。このまま全てなかったことにして、家に帰りますか?」 「……」  響の言葉に、俺の身体は切なげな悲鳴を上げていた。  俺の戸惑いを見て取った響は、更なる選択肢を告げる。 「それとも……俺と愛し合いますか? 今から、ここで」 「ここ、で……」  響に見下ろされながら、俺はそっと唾を飲み込む。 「いつまで……」 「先輩が望むまで、ずっと。何度でも」  その一言が、決定的だった。  俺は糸が切れたように、響にこう告げていた。 「たの、む……何度でも……っ」 「――先輩」  最後の言葉が終わる前に、響は俺を押し倒した手に力を籠める。  再び唇を重ねながら、俺の足に手を伸ばした。 「……ん、んんっ」  片足を持ち上げ、開いた部分に身体を押し込む。  ベンチの上という狭いスペースで、無理矢理俺と繋がるための体勢を作った。 「……いきますよ」 「あ、いき、なり……っ」  響の熱い部分が性急に押し当てられた。  まだ慣らしていない、誰も受け入れたことのない身体が反射的に竦む。  けれども、響は構わず俺の中に入ってきた。 「あ……あぁああああああっ!」  記憶と心は期待していた。  けれども受け入れられる状態ではなかった身体には、以前にも覚えのある引き裂かれるような激痛が走った。 「先輩……どうしました? 苦しいですか?」 「あぁあっ、あっ」  響の言葉に返事もできない程の苦痛。  けれども響が声を発する度に声が全身に響き渡り、思わず声が漏れる。 「……随分と男を誘う様子に慣れていのでまさかとは思いましたが……初めて、ですか?」 「あっ、やっ、んんっ」 「そうですか……ですが、すみません」 「あぁ……え、あぁんっ!」 「余裕がないのは俺も同じで……これ以上、我慢できません」 「あ、え、あぁぁああっ! やぁあっ!」  いつもの響の優雅な声とはまるで違った、ひきつったような必死の声。  それだけ言うと、響は動き出した。  俺の身体の、更に奥へ。  ただでさえキツい身体に響の熱が何度も押し込まれ、擦り込まれていく。  今までの俺なら、その熱に翻弄され、快感を引き出され響と共に快楽に沈んでいっただろう。  けれども、記憶はそうでも身体は違う。  快楽の記憶と激痛の身体の狭間で、俺の精神は溺れていた。  気持ちいい。  いや、苦しい。  それでも、響が与えてくれる感覚全ては、愛おしい…… 「あっ、あぁっ、ひび、き……っ!」  いつの間にか俺は自らも腰を動かし、響の動きに合わせ全身で反応していた。 「先輩……っ!」 「はぁっ、いぃっ、ひびき……っ!」 「信良木先輩……っ!」  そのまま公園のベンチの上で、俺たちは必死で身体を重ね合った。 「ぁ……っ、あぁっ、ひゃぁんっ!」 「先輩……っ!」 「はぁ……っ、はあ……、あ……」  互いに欲望を吐きだした俺たちは、ふと周囲を見回し我に返った。  周囲に住宅の無い夜の公園とは言え、俺たちは一体何をしてしまったんだろう。  響が掴んでいた俺の腕が、足が、そして下半身がじりじりと熱を伴って痛かった。 「――先輩、すみません……俺……」  響が荒い息のまま、俺の耳元で囁いた。 「いや、俺も……きっと、俺が……」  悪かったんだ。  そう謝ろうとした俺の唇を、響の唇が塞いだ。  そして告げられたのは、意外な言葉だった。 「帰ってから……続きをしてもいいでしょうか?」  あれだけ汗をかいたのにも関わらず、まだアルコールが身体に残っていたのだろうか。  俺は、響のその言葉に頷いてしまった。  俺たちは朧げな足取りのまま支え合ってマンションまで帰って――そのまま朝まで愛し合ったのだった。  そこが、分岐点だったんだろうか。  以前に一度この3ヶ月経験した時は、たしか決起会の帰りは何も起こらなかった。  ……多分。  しかし今回、俺たちは酔った勢いでどうやら関係を持ってしまったらしい。  朝、目覚めた響はさすがに青くなって俺に謝罪した。  しかし俺も同時に必死で響に謝った。  あの時点で、響が俺を襲う動機はない。  ということは、俺の方から誘ってしまった可能性が高い。  結局、互いに記憶がはっきりしないままでは責任の取り様がなく……ひとまず一夜の過ちの責任の所在は曖昧なまま終わるかと思われた。  けれども、響ははっきり俺にこう告げた。 「……先輩、責任を取らせてください!」 「責任って、お前……」  男同士の、しかも多分俺に責任があった結果の行為でそんな事を言いだした響に息を飲むが、すぐに首を振る。 「いや……必要、ない」  俺は、響のことを想ってはいる。  けれども、責任を感じて恋人になってもらっても意味はない。 「――そうですか」  俺の言葉に響は妙に沈んだ声で頷いた。 「ただ……許してくれ。俺はいつもお前に対して……そんな感情を持ってるってことを」  それだけ告げて、その話は終わりになった。  ……はずだった。  だが、事はそれだけでは収まらなかった。  俺が響に用具室に閉じ込められたのは、初めて関係を持った次の日だった。

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