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第35話 6月27日 23:00 三周目のゲーム

「文さん――」 「響……」  運命の日前日、6月27日。  この日の夜も、俺たちはいつもの様に恋人同士の営みを始めようとしていた。 「なあ、響、覚えてるか? 明日はいつもより早くに出るって――」 「……1時間前、でしたっけ?」  口付けの後の事務連絡も何時の間にか慣れてきた。  響は平然とそれに答える。 「なら、今日は早めに終わらせましょうか?」 「い、や……それは……」  少し意地悪な様子で告げる響に、俺は困ったように口籠る。 「冗談ですよ。お詫びに、いつもよりたっぷり愛してあげます」 「あ、響……」  再び俺を抱き締める腕を、慌てて止める。 「じゃ、じゃあ、これは覚えてるか? 明日は特に、車に気をつけろって夢……」 「ああ……もう明日ですね。信号無視のトラック、でしたっけ?」 「そうだ」  以前話した内容を、再び響に念を押すように告げておく。  当日は俺が極力気を付けて、事故から避けるようにするつもりだ。  それでも響が注意するに越したことはない。  だけど……  心の中に湧き上がるのは、不安。  何だろう。  どうして俺はこんなにも心が晴れないんだろう。  2度も見てしまった、響が四散する映像は今も目に焼き付いている。  あの時響は俺を見て笑ったような気がする。 (文さん――駄目だ!)  響の言葉が脳裏に蘇る。  いや。 「あ、れ……!?」 「どうしました?」  はっと脳内に走った閃きに、思わず声が出た。 「いや……いや、何でもない……」  じっと響を見つめると、愛おしそうな視線が絡まる。 「なあ、響……」 「何ですか、文さん?」 「俺たち……もしかするとずっとゲームを繰り返してたのかもしれないな」 「えっ?」 「終らない、決して勝利条件の重ならないゲームを……」  どうゆう意味かと首を傾げる響に、俺の方から口付けた。  そのままきつく抱き締められ、お返しと言わんばかりにキスを返される。 「ぁ……はっ、ひびき……」 「文さん……!」  恋人の時間が始まった。  いつもより愛してあげると告げた響の言葉に嘘はなく、あらゆる箇所を、今まで以上に責めあげられた。  俺も情けない声を漏らしながら、どんな響も受け入れていく。  繋がっている最中のことだった。 「――文さん!」  ふいに、響はそう叫ぶと俺を強く抱き締めた。 「あ……ひび、ぁああっ!」  今までとは違う動きに俺は思わず声をあげるが、響は気にすることなく腕の力を強める。 「文さん……文さん」 「ぁ……っ、響……っ、大丈夫、大丈夫だから……」  身体の奥深くで響を感じ悶えながら、俺はなんとか響の頭に手を置く。 「文さん……今は……千秋楽前日?」 「ぁ、あ……日付が変わって、28日……っ」  響の言葉に息も絶え絶えになりながら返事をする。 「俺は……ここに、いるから……っ、何度だって、お前を愛してるから……っ」 「文さん……俺も、何度でも愛してます……! 何度だって、守ります!」 「ふぁ、あぁあああ……っ!」  響の激しい動きにとうとう耐え切れず、声をあげ絶頂に達する。  響はそれからも何度も俺を求め、俺もまた響を求め愛し合った。

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