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第10話

 「ただいま〜」 「先輩おかえりなさいっす!」 交番の奥は6畳の和室が一部屋。そこからひょっこりと顔を出した伊藤の手にはカップ麺。 「お先にいただいてま〜す。」 「いや、それはいいんだが。お前、それ誰の食べてるかわかってんのか?」 畳はついこないだ張り替えたばかりで草のいい匂いがまだする。が、ラーメンの匂いの方が断然強いな。 「先輩のっす」 麺を啜りながら当たり前のように答えるが 「だよな〜?なに勝手に食ってんだよ」 「だってー!もう自分の弁当なんて飽きたんすよ!たまには違うものが食べたいっす!代わりに自分の食べていいっすから!」 「ったく」 仕方がないので伊藤の作ったと言う弁当を頂戴することにしたが 「お前これどうにかならねぇの?」 中身は冷凍のキンピラに冷凍のハンバーグ冷凍の小さなグラタン。 たしかに最近の冷凍食品は馬鹿にできないほど美味いし栄養が偏ることもないだろう。が 「そんなだからいつまで経っても自炊出来ねぇんだろ」 こう毎回毎回冷凍食品ばかり詰まった弁当を見せられると呆れてしまう。 「いいんっすよ!俺は料理のうまい嫁さんもらうんっす!」 「今の時代男も料理出来ねぇとモテないぞ」 「先輩はなんでそんなに料理上手いんすか?」 冷凍食品って美味いんだけど全部一口サイズで食べ応えないよな…。 「俺は学生の時居酒屋の厨房やっててさ。」 「へー。それで料理好きになったんすね」 「いや、料理好きと言うか…家族が『美味い。美味い』っておだてて作らせようとしてきたんだよ。」 「それでもやるの偉いっすよねぇ」  島には大きな建物はない。 月の光を遮るビルもなければマンションもない。交番前には月明かりを受けてできた大きな桜の木の影がざわざわ揺らめいていた。 春にはきっと立派に花を咲かせるはずだ。 「あいつちゃんと食ったかな…」  

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