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『名前』
先輩のご両親に挨拶に行くと、2人は先輩と同じαであったがΩの男である僕を見下す事なく暖かく受け入れてくれた
それどころか先輩が番になる前の僕を妊娠させたことを謝罪までしてくれた
その後両家の顔合わせを済ませると、意外にも気があったようでその後も交流があると母が言っていた
僕らは引越しをして二人暮らしを始めた
先輩は僕が18になるまではと婚約指輪を渡してくれて、出産後の発情期で番になる約束もしてくれた
この新居は婚約祝いで義両親から頂いたものだ
規格外のお祝いに初めは断りを入れたが、お義母さんが管理しているマンションの空室だからと丸め込まれ最終的には頂くことになった
頂いたお祝いとは比べ物にならない細やかな物だが、お返しを渡すととても喜んでくれ、その後も産まれてくる子どもや僕のためにと様々なギフトまで送って頂いて、お返しに頭を悩ませる贅沢な悩みを抱えるほど良くしてもらっている
腹の子もすくすくと育ち、あと2ヶ月で産まれる我が子が居る腹は、下を向くと足元が見えないほど大きくなっていた
今はお腹の子が産まれるのを今か今かと楽しみに待っているところだ
そんな充実した日々を過ごす僕のここ1番の悩み事
それは
「せんぱ、あ」
「何、秋葉」
先輩の名前を呼ぶことに慣れないことだ
気持ちが通じ、結ばれてすぐに先輩は呼び方について意見した
先輩と呼ばれるのは好きだが名前で呼んで欲しい、と
もちろん結婚して番になるのだから、と名前を呼ぶよう意識した
しかし未だに先輩、と口にしてしまう
その度にお仕置きと称して顔を見ながら名前を呼ばせる先輩に羞恥心が刺激されるのだ
「あ、う、達郎、さん」
「よくできました」
ご褒美、と見つめられながらキスを落とされる
先輩は僕の恥ずかしがる姿が好きだと言う
先輩はきっと今楽しいのだろう
自分の名前ひとつで翻弄される僕を見るのが
たった今羞恥で顔を赤らめる僕を見る、その意地悪な笑顔が物語っている
早く先輩の名前に慣れて間違えずに呼ぶことができたら、とは思う
好きな人に名前を呼ばれるのはとても幸せなことだから
でも、楽しそうな先輩の笑顔を見ると、もう少し練習期間があってもいいのかもと思う僕は毒されているのかもしれない
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