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『嫉妬』
達郎さんは昼間は大学に通い、夜はバーテンダーとして働いている
達郎さんの従兄弟が経営している店で融通が利くから決めたと言っていた
リビングでお利口に遊んでいる新を見ながら夕飯の準備をする
時折目が合うと声を出して笑う新に癒されていると、何処からか自分の物ではない着信音が聞こえてきた
濡れた手を拭き、音のする方へ行くとそこには現在バーで勤務中の達郎さんのスマホがあった
きっと忘れて行ったのだろう
配偶者とは言えど人のスマホを勝手に見るのは憚られ、音楽が流れるスマホを前に悩む
その間も着信音は鳴り止まず、渋々手に取った
「もしもし。あの、達郎の夫ですが。主人はスマホを忘れて、」
「秋葉?」
スマホから聞こえてきた達郎さんの声に驚く
「え、あれ、これ達郎さんのスマホだよね?」
「そう。今は光一 、従兄弟のスマホから電話してる」
「そっか、達郎さんのスマホから達郎さんの声がして驚いた」
「はは、すごい戸惑った声してた。あのさ、悪いんだけどスマホ店まで持って来れるか?」
達郎さんの言葉にキッチンの作り途中の夕飯とリビングでご機嫌に遊ぶ新に目をやる
やる事はあるが、連絡手段が無いのは困るだろう
「行けるよ。今から準備するから1時間くらいかな」
「悪いな、気を付けて」
「うん」
電車に乗っての移動であったが、新はとてもお利口で機嫌よく過ごしてくれて助かった
人見知りをせず人懐っこい新は電車内で目が合う人々に笑顔を振り撒き、たくさん声を掛けられた程だった
バーの最寄駅に着くと、久しぶりに来る繁華街の人の多さに圧倒されつつも達郎さんのバイト先へ急ぐ
「ここ、だよね」
場所は教えられていたが初めて来る達郎さんの職場
入り口の開店準備中の掛け札に入るのを躊躇われたが意を決して扉を押した
「いらっしゃいませ。すみませんがまだ準備中、あ!もしかして秋葉くん?」
中に入ると金髪で長身の男性がカウンターに居て、そう話しかけられる
「あ、はい。えっと、お忙しい所すみません。黒田達郎の夫なのですが、主人の忘れ物を届けに来まして…」
「聞いてるよ、俺は達郎の従兄弟の光一です。いやあ、噂には聞いてたけどあいつの番がこんな可愛いくていい子なんてなぁ」
達郎さんの親戚である光一さんは達郎さんと顔はそこまで似ていないが、笑顔が少し似ていた
「いえ、そんな…」
「達郎だよね?そろそろ戻ってくると思う、あ!ほら来た」
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