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『悪阻』

達郎さんが言う通り予定日を過ぎても発情期が来なかったので新を義母に預けて2人で病院に行った 医師から告げられたのは妊娠3ヶ月 まだ膨らみを見せない腹を撫でる 宝物がまた1つ増えた 新しい命に嬉しく思い、安定期に入るのを待ち遠しく感じていると体に変化が起きた 食事を前にすると酷い吐き気に襲われ、食事が摂れないのだ 新の時は軽かった悪阻が今回は重かった 食事ができず栄養が不足した体はすぐ限界を迎え、何度も倒れては病院で点滴を打ってもらった このまま食事が摂れなければ入院と言われ何とか食べられるものを探すと、さっぱりした物や酸っぱい物は吐かずに食べられたので少量ずつを1日中食べ続けた お陰で入院は免れたが家事や育児、課題をする元気はなく新と共に実家に戻って母の力を借りて過ごすようになった 「秋葉」 実家のソファで横になっていると、仕事中の筈の達郎さんが僕の体を撫でていた 「あ、れ、仕事は」 「今日は人手が余ってるから、帰っていいって言われた」 「…ごめんね」 「何で謝るんだよ。秋葉は悪くないだろ」 達郎さんはソファの側に座り込むと、僕の腹に顔を寄せた 「ふふ、まだ動かないよ」 「…あの、さ」 「うん?」 「秋葉がこんなに苦しんでるのに、酷いこと言うけど」 そう硬い声で言う達郎さんの顔は僕の腹に埋まっていてよく見えなかった 「…俺のせいで秋葉の体が変わっていると思うと、正直興奮する」 思いがけない言葉に目を丸くする 「え、」 「秋葉の高校での思い出も、青春も全部奪ってごめんな。けど、それを犠牲にしてでも俺の子ども産んでくれるのがすごく嬉しい」 確かに、新を妊娠を知った高校2年の冬から僕は学校に通っていない Ω支援の学校のため、産休育休制度があり僕も現在それらを利用しているからだ 課題を提出することで通学しなくても単位を取ることができ、卒業もできるため学校に通えないことはあまり気にしていなかった 友達とも毎日は会えないが電話をしたり、時に新を達郎さんに任せ食事に行ったりと関係は続いている 達郎さんがそのことを気にしているとは思いもよらなかった 「…確かに学校には行けないけど、僕は達郎さんと新と3人で過ごす時間が好きだよ」 「え、」 「そこにこの子が増えたらもっと幸せになれると思う。だって、達郎さんとの子どもだもん」 「秋葉、」 「大好きな人と、その人との可愛い子どもに囲まれて過ごせるなんて1番幸せなことでしょう」 驚いた顔で固まる達郎さんの髪の毛を撫でそう言うと、達郎さんは僕の大好きな顔で微笑み僕のことを抱きしめた 「…そうだな、俺らは幸せ者だ」 満足に食事ができず、気持ち悪さが付き纏う日々は正直辛い それでも愛する人とその子どものためと思えば不思議と体の底から力が湧いてくるのだ 早く会おうね、お父さんとお兄ちゃんも貴方に会えるのを楽しみに待っているよ

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