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焼け石に肉 6

「で、なんか食ってきたのか?」 「え、いや。でもあんまり食欲なくて」 「ハァ」  俺の答えを予想していたのか、わざとらしいくらい大きなため息をつかれる。いや、はっきりと言葉で言われた。呆れましたのポーズだ。  それからヒバリさんは無言のまま冷蔵庫を開けて次々と見たことない食材を取り出し始めて、さすがに黙っていられなくなった。だってそれ俺が買ったものじゃない。  昔は同棲相手のために料理を作っていたから冷蔵庫は結構埋まっていたけれど、最近は店のまかないや持ち帰りで済ませているから飲み物くらいしか入っていないはずなのに。  つまり答えは一つ。それもヒバリさんが買ったってこと。 「え、買い物行ったんですか!?」 「買い物くらい行くわ。普通に」  ネットスーパーという手もあるけれど、わざわざ登録したとは思えないし、本人が認めた。  いや、吸血鬼の特性として朝日が苦手なだけで、日が落ちたら自由に外に出られるんだし、買い物に行くこと自体は不思議じゃない。コンビニだってたまに行く。  重要なのは、俺のためにヒバリさんがスーパーに行ったってこと。俺の身を案じてサプリメントだけではなく、食材まで用意してくれるなんて。  ……これはもしやデレ期が来ているのではないだろうか。  全然性的にはピンときていないけど、俺の血液には少しくらい価値を感じていると、そう思っていいんじゃないだろうか。 「今度行くときは一緒に行きたいです」 「なんでだよ。一人で行けんだろ」 「え、だってスーパー行くヒバリさん見たい。絶対可愛いじゃないですか」 「なんだよ可愛いって。ガキ扱いか。言っとくけどお前より何倍も年上だからな?」 「知ってます。でも絶対見たい。欲しいものなんでも買うから」 「欲しいものがあったら勝手に買う」 「そうでした……」  さすが俺のクレジットカードを握っているヒバリさんは格が違う。  なんとか買い物姿を見れないだろうかと四苦八苦する俺をばっさり切り捨てたヒバリさんは、意外や意外の手慣れた様子で料理をし始めた。  ヒバリさんがキッチンに立っている姿は不自然なのに変に決まっていて、まるでドラマだ。現実味がなさ過ぎて見慣れたキッチンが別物に見える。  玉ねぎとじゃがいもとベーコンを小さく切ってバターで炒め、ある程度火が通ったら小麦粉を入れてまた炒め。そこに水を入れて沸騰させてからアサリと牛乳とコンソメを加えてひと煮立ち。最後に塩コショウで味を調えてあっという間に完成させてしまった。 「これぐらいなら食えるだろ」  そんな言葉とともにテーブルに載せられたのは黒胡椒にパセリまで散らしてくれているクラムチャウダー。  さらっと作ったわりに予想外にちゃんとしたものが出てきて驚いた。体に良さそうだし、たぶん貧血防止になるんだろう。  なによりヒバリさんの手作りだ。  もしも見た目に反してとんでもない味だったとしても、俺はすべて食べきると食べる前に決めている。 「いただきます……あ、おいしい」  両手を合わせてからスプーンで一口。  思った以上にとろとろクリーミーなスープは、ちゃんとアサリのうまみが出ていておいしい。お世辞じゃなくこれは残さず食べきりたい。急に食欲が出てきた。 「なに驚いてんだよ、失礼な」 「え、だってすごくおいしいですよ。あと、料理するヒバリさんめちゃくちゃかっこよくて眼福でした」 「意外と余裕あるよなお前」  貧血を起こして、ついでに怪我までして帰ってきたわりには勢いよくクラムチャウダーを頬張る俺に、ヒバリさんは苦笑いしている。それでも食べっぷりがいいのが良かったのか、俺を観察するみたいにして向かいのイスに腰を下ろした。  だってヒバリさんの手作り料理だ。  これはもう完璧に、俺の「エサ」としてのレベルが上がってる。手間をかけてもらっている。誇っていいよ俺。

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