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焼け石に肉 7
「本当に、すごくおいしいです。隠し味は愛情とかですか?」
「腕だよ腕」
「ですよね」
「……ま、あんま青白い顔されると吸いづらいからな」
頬杖をついてそんなことを言うヒバリさんの優しさを十二分に受け取りつつスプーンを動かす。
この料理はとても嬉しい。
ただ、ふと気づいてしまった。
貧血防止の料理をさらりと作れるということは、前にも誰かに作った経験がある、ということに。
それはつまり過去にも誰かの家にいて、誰かの血を吸って、誰かのためにこうして料理を作ったことがあるってことを示している。俺だけが特別なわけじゃない。
もちろんそんなのは当然のことで、今さらではあるのだけど。薄っすら思っているのと目の前に突き付けられるのとではやっぱり理解度が違う。
「今日はそれ食って大人しく寝ろ」
「え、今日は吸ってくれないんですか?」
「貧血で帰されたんだろ? こちとら人殺しは趣味じゃないんで」
イスに横座りで足を組み、ひらひらと手を振って見せるヒバリさん。つまり吸わないってことだ。
吸血鬼にとって血液は食事だけど、吸わなくても飢えて死ぬことはないから人間の食事の意味とは少し違うらしい。どちらかというと嗜む程度のお酒に近い感じだろうか。
だからヒバリさんも毎日俺の血を吸うわけじゃない。
大食いじゃないからそれでいいとヒバリさんは言うけれど、俺としては毎日でも吸ってほしいし、できることならそこからエロい展開になってほしい。
今日はお前が食いたい、とか言われたい。
「なんで不満そうなんだよ。普通は血吸われたら恐がるんだからな?」
そんな気持ちが表情に出ていたのか、ヒバリさんは怪訝そうに眉をひそめて横目で俺を見る。
「でもヒバリさんは恐くないです。むしろご褒美です」
「血吸われるのがご褒美ってどんだけMなんだよ」
「いや、顔の良さですべてチャラな上に吸われると気持ちいいって、いいことしかなくないですか」
「お前、さては男見る目ないだろ」
Mというか、相手がヒバリさんだからこその話だったんだけど、ずばりと言われてしまえば反論はできない。
心外な、と言い返そうにも、正直これまでの人生でまともな付き合いをした相手がいないのは事実だ。
性格は二の次な面食いという自覚はあるから、それもまあ致し方ない。
「……わかりました。じゃあエサとしての役目さえ果たせない俺は大人しく寝ます。今日は一日役立たずです。食器は朝洗うのでそのままにしておいてください。どうせ俺にはそれくらいしかできないので」
ごちそうさまと食べ終えた食器を手に立ち上がると、水だけ浸してシンクの中に置く。そして最後に座ったままのヒバリさんに未練がましい視線を送ると、口をへの字に曲げられた。
「……仕方ねぇな」
そしてわざとらしく肩をすくめたヒバリさんは、緩慢な動きで俺の腕を掴んだ。そして入れ替わるようにして立ち上がり、代わりに今座っていた場所へ俺を座らせる。
そして。
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