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魚心あればときめく心 2
『悪かったね、せっかくかけてくれたのに電話に出られなくて。今は大丈夫かい?』
「はい。こちらこそ折り返させちゃってすみません。一応、元気ですということをお伝えしたかっただけなので」
掃除を一時中断、柳さんにお任せしてバックヤードに引っ込む。
普段店の中で話しているとはいえ、こうやって直接電話でやりとりすると少し変な感じだ。
『うん、大丈夫そうなら良かった。心配したよ。ちゃんとご飯は食べてる?』
「食べてます。特に昨日今日でたっぷり鉄分採りました」
『それならいいけど。でもまた倒れないか心配だから、ちゃんと食べているところを確認しないと。それに怪我をさせてしまった責任もあるしね』
「もー、本当に大丈夫ですって。怪我っていうほど切ったわけじゃないですしもう治ってますから」
さすがに吸血鬼に血を吸われすぎて貧血になった、なんて理由は話せないから、昨日は吸われてないので大丈夫と胸を張ることもできない。そもそも胸を張る内容でもない。
とにかく大丈夫だと納得してもらおうと言葉を重ねる俺に対し、クライスさんの声はどこか楽しそうに弾んでいる。
『そうだな、じゃあ大丈夫って証拠に食事に付き合ってくれる?』
「食事、ですか?」
『睦月くんがちゃんと食べているか目の前で確認したいんだ。……というのは建前で、実は一人じゃ入りにくいレストランがあってね。一緒に行ってほしいんだけど』
「ええと……」
『他の店のことだから店長の手前、店の中では誘いにくくて』
大守さんは気にしないかもしれないけれど、確かに食事をしている途中にそこの従業員と他の店に行く話はしにくいだろう。
しかし、アラカルトにはいつも一人でやってくるクライスさんだけど、誘えばきっと一緒に食事に行ってくれる人なんてたくさんいるだろうに。それともそういう人たちとは行きにくいお店なのだろうか。たとえばゲテモノ料理とか。
「えーっと、じゃあお店が休みの時になら」
『良かった。それじゃあ……』
元気だと言う報告の電話のはずが、なぜだかクライスさんと食事に行くことになって、流れるように予定が決まってしまった。
待ち合わせ時間に待ち合わせ場所、車で迎えに来てもらうことまであっという間に決まって、電話を切ってからも呆然としてしまった。
「マヨくん大丈夫? なんか厄介な電話だった?」
「あ、いえ、ちょっと目まぐるしくて展開についていけなかっただけです。今戻ります」
「目まぐるしい電話……? いいならいいけど」
頭が回っていない状態で答えたものだから柳さんを困惑させてしまった。申し訳ないけれどこれ以上説明できなかった俺は、首を傾げながらもホールに戻る柳さんに続いた。
クライスさんと食事とは、どういう展開なんだ?
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