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飛んで火に入る夜のエサ 8
「俺がお前の血の匂いに敏感じゃなかったら、今頃どうなってたかわからないんだからな」
「本当に、助けていただいてありがとうございます」
ヒバリさんがあのタイミングで飛び込んできてくれなきゃ、今頃自分がどうされていたのか、恐くて想像もできない。
紳士的なふりをして、いざとなったら俺の言うことなんかなにも聞いてくれなかったし、ヒバリさんと違ってしっかり性欲もあったみたいだし。
いくらなんでも好き勝手される奴隷になる趣味はない。
「つーかむしろ、なんであんなのについていったんだ。お前のタイプじゃないだろ」
「タイプって、なんでそんなことヒバリさんが知ってるんですか」
「なんでって、お前俺の顔好きだろ?」
わかりきったことだろうという堂々とした物言いに、「はい、好きです」と素直に返してしまうくらいに俺の推しは顔がいい。
そりゃあそうだ。吸血鬼にかけられた暗示が解けるほど、俺はこの人の顔が好きだ。
クライスさんのことも、かっこいいとは思うけど好みとは違う。それでもなぜついていったと言われると、ヒバリさんのせいだと言いたくなってしまうのも俺が悪いのか。
「……だって、付き合いたいって言われて、そういうのいいかもって」
「は?」
告白から始まる普通のお付き合い。
ヒバリさんに否定されたことの反動で、より一層そういうのに憧れてしまったんだ。俺のことが必要、欲しいって言ってくれる相手に身を任せたくなった。
「付き合って、デートとか、いいなって思って」
「デートぉ?」
「どっかに連れてってもらったりご飯食べに行ったり、そういうのいいなって思っちゃったんです。それで、好きだって言われて抱かれたかったんです! 全部、夢見た俺が悪かったんですよっ」
今考えればあれはデートなんかじゃなく、ただの罠でしかなかったんだろう。ただの食事の前の下ごしらえ。我ながら本当にちょろい。飢えすぎにも程がある。
それでも、ヒバリさんに否定された後だったから、誰かに求められたかったんだ。
だけど結局求められたのは俺の血と体だけで、同じ轍を踏んでしまった。
本当に、短期間でこんな特殊な経験を繰り返すなんて、男運が特殊すぎる。
「とにかく。これに懲りたら、怪しい男にはついていくんじゃないぞ?」
まるで子供にするように注意をするヒバリさんからしたら、きっと俺もただの子供なんだろう。
子供に手を出そうとする大人はやばい。まさにその通り。
今度から芦見ちゃんを先生と呼ぼう。
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