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闇夜に提灯 4

 そんなこんなで突然手に入れた時間で思いつく限りの買い物を済ませ、両手に買い物袋を手にしたまま福引きの抽選所にやってきた。  切れた日用品の補充とか、最低限の食料とか、買い物に集中していたらすっかり日が落ちてしまっている。早いところ帰らないと。  引くからにはいいものを当てたいと、ガラガラ気合を入れて引いたくじの結果は、青い玉の四等だった。てっきり六等のポケットティッシュかと思っていたから、予想よりかは上の順位だけどしかし。 「傘……」  温泉旅行、自転車、お米と来て突然の傘。  日傘にも雨傘にもなるいいものらしいけれど、機能的過ぎてだいぶ大きい。男物だろうか。青空みたいな色をした、しっかりとした傘。  ついつい安いものを買い込んだせいですでに荷物はいっぱいなのに、ここに傘を持つとまるで勇者みたいな格好になってしまう。いっそ背中に背負おうように差そうか。  とりあえず適当なところに引っ掛けて持って帰らないと。  そう四苦八苦する俺に近づく一つの影。 「なにやってんのお前」 「わああヒバリさん!」  まさかの人の突然の登場に思わず声を上げてしまった。その声に自分でもびっくりして慌てて口を塞ごうとしたけど、あいにくと両手は袋で塞がっている。  それを呆れた顔で見ているヒバリさんは、やっぱり本物だ。俺が生み出した幻想ではないらしい。 「どうしてここがわかったんですか?」 「指」 「あ、券で切ったのか」  短い言葉と視線に誘導されて自分の手元に目を落とす。指先に小さな赤い線。さっき福引きを引く時に指先にぴりっとした痛みが走った気がしたのはこれだったのか。  どうやらそれがきっかけでわざわざここまで足を運んでくれたらしい。確かに血の匂いには敏感だと言っていたけれど、こんな小さな傷でもわかるのか。  それとも、気にかけてくれていたんだろうか。 「そんぐらいなら放っておこうと思ったけど、なんか変な時間に変なとこいるから一応な」  ポケットに手を突っ込んだままぶっきらぼうな口調で言うヒバリさんだけど、そんなこと言われたらときめいてしまうじゃないか。 「え、心配してくれたの優しい……」 「食われてた前例あるし」  言い方、と思ったけれどまさにその通りの目に遭っていたから間違いではない。実際二つの意味で食われそうになった。とても危ないところだった。  なにより「心配」という部分を否定されなかっただけで俺はポジティブに生きられる。エサとしてでも心配されてるから良し、だ。 「で、買い物は終わったわけ?」 「終わりました! 帰りましょう! ……あっ」  帰ろうと言ったわりにはもらった傘の行き場にもたもたしていた俺から袋を一つ取り、ヒバリさんがさっさと歩き出す。押しつけがましさもなく荷物を持ってくれる様はさり気なくて、ときめきで一瞬ついていくのが遅くなってしまった。  こんなに優しくしてもらえるのなら、クライスさんに襲われたことも悪いことだけではなかったのかもしれない。いや、もちろんいいことでもないんだけれども。  ともかく遅れないように早足で隣に並んで、家を目指す。  二人で並んで一つずつ買い物袋を持って歩くとか、これはもう付き合っていると言っても過言ではない。……付き合ってないしその予定もないけど、大枠で見れば大体そんなものと言えなくもない気もする。ポジティブに。 「そういえば、夕方なのに大丈夫なんですか?」  ともかく会話をしようと持ち出した話題は、今ここにいるヒバリさんの体のこと。  吸血鬼という特性上、てっきりヒバリさんは日が落ちていないと活動しないのかと思ったけれど、どうもそうではないらしい。現に今、暗くなったとはいえ完璧には日は落ちきっていない。 「ま、お前の血吸ってるからな」 「ん?」 「お前の血吸ってる分、わりと日の光とか流れる水とかにも強くなった」 「え、そうなんですか?」 「わりと、だけどな」  物のついでのようにものすごくさらりと言われたけれど、それってとんでもないことじゃないのだろうか。  吸血鬼の弱点として十字架やにんにく、日の光が有名だけど、それが平気になったってこと?  それに確か流れる水も弱点で、動けなくなるとか弱るのだと聞いていた。それなのにこの前シャワーの水をかぶった時もそこまで弱ってはいなかった。  それが、俺の血を吸っているから?

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