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鬼の心エサ知らず 5

「えええええ!?」 「なんだよ急に」 「あれヒバリさんだったんですか!?」 「覚えてんのか?」  覚えてないどころの話じゃない。認識の違いだ。  だって知っている。俺はその光景を覚えている。ただし、子供の知識と記憶力で。 「優しくてかっこいいお医者さん!」 「あ?」 「俺の初恋の相手! 転んで泣いてたら、あっという間に痛くなくしてくれた人! だからてっきりお医者さんなんだと……」  たぶん4、5歳の頃のことだ。  ブランコに乗り足りなくて夜に家を抜け出して公園に向かったはいいけど、暗くて怖くて、ブランコに乗ってもちっとも楽しくなくて。しまいには落ちて膝をすりむいて痛くて泣いていた時に来てくれた人が、一瞬で傷を治して痛みを取ってくれた。その上で家まで送り届けてくれたんだ。  優しくてかっこよくて白いその人を、俺はお医者さんだと思い込んだ。  子供の記憶力じゃ細かい顔の造作まで覚え切れず、ただ顔がかっこよかったというイメージだけが残ったんだ。  その人にもう一度会いたくて、親に病院に行きたいと言って困らせたことを思い出す。当然、探し出すことはできなかった。  それもそのはず。お医者さんじゃなかったのだから。 「な、だって、ええ……そんな……」  その答えが今現れた。  あんなに焦がれた初恋の人が、まさか目の前にいるだなんて。  突然すぎる展開に頭が混乱する。初恋の人が実はヒバリさんだった。つまりそんな昔に会っていたということ。 「じゃあ全責任はヒバリさんにありますよ!」 「ちょっと落ち着けって。ものすごい百面相してるぞお前」 「落ち着けませんよ! だって俺が面食いになったの、ヒバリさんが原因ですから。こんなかっこいい人子供の時に見て、まともな恋できるわけないじゃないですか! 俺が顔だけの人に引っかかるの、全部ヒバリさんのせいですよ!」  そういう人を惹きつけやすい体質もそりゃあるかもしれない。だけどその中からまず顔を一番の基準にしてしまうのは、間違いなく原体験のせい。  そりゃあヒバリさんの顔が好きなはずだ。さすがに小さすぎて曖昧な記憶の中に、それでも刻まれていた強烈な好みなんだから。 「責任取ってください」 「責任って……ちょっと待て、落ち着けって言ってんだろ」 「嫌です。いい加減はっきり聞かせてください、ヒバリさんの気持ち。俺のことどう思ってますか」  ヒバリさんが、俺を抱くのは絶対無理だと言ったことで絶望したりもしたけれど、どう聞いても嫌われているとは思えない。  好意なくこの年になるまで見守るなんて、ストーカーだってしない。  この際最後まではっきり聞こうじゃないかと迫ってヒバリさんの膝の上に乗っかった。こうすれば逃がさずに距離を縮められる。 「俺、ヒバリさんが好きです」  回りくどく言ってもしょうがない。思っていることを素直に伝えるだけだ。 「そもそもクライスさんに引っかかったのも、ヒバリさんに拒否られたからなんですよ」  言うなれば反動だ。そりゃ多少はクライスさんみたいな人に愛されるのもいいなと憧れてしまったけれど、それだってそもそもの原因はヒバリさんがつれないから。 「でも、俺のこと見守ってくれたってことは、嫌いじゃないってことですよね? むしろ大切ってことでしょ? それってもう好きってことですよね? 認めて楽になりません? そろそろ俺のこと抱いてもいい頃だと思うんですけど」  俺が迫るたびヒバリさんがのけぞって、すっかりと仰向けになってしまっている。ヒバリさんの力があれば、本当に拒否したいのなら俺を押しのけるなんて簡単なことだろう。  だけどそうする代わりにヒバリさんは腕で自分の顔を隠した。

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