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鬼の心エサ知らず 6

「……無理。ガキの頃から知ってるんだぞ」  苦く低く呟かれたのは、俺を嫌う言葉ではなかった。  どう思っているのかを伝えるのが一番手っ取り早い。大守さんの言うとおりだ。言葉にしたらなんて単純なことだろうか。  ヒバリさんが強く拒否をしたのはそれが理由か。わからなくもないけれど、それだけの時間見守っていてくれた気持ちが、ただの心配だけとは思わない。 「もう立派な大人です。ていうかなんでダメなんですか。そんなに俺に魅力ないですか」 「……散々堪えてたのに、お前に誘われてあっさりと血を吸った俺に対する皮肉か」  ちろりと腕をずらして覗いた目で俺を睨むヒバリさん。残念ながら今の目には鋭さがない。 「それぐらい抗いがたいんだよ、アルカってのは」 「でも耐えてたんですか? なんで?」  正直クライスさんの反応から言って、すぐに吸いつくされても不思議はなかった。「飼う」という単語が普通に出ていた辺り、そういう展開だってあり得たはずだ。  それなのにヒバリさんは必要以上に吸わなかったし、なんだかんだ言っていつでも守ってくれた。抗いがたい欲求に抗ってまで。 「うるせぇな。大事だからに決まってんだろ。いつもいつも心配ばっかりさせやがって」  腕を外し、俺の好きな顔で俺を睨んで面倒そうに言い放たれたセリフは、俺をよろけさせるには十分だった。 「……もしかして、それが爆発して一緒に住んで守ろうとしてくれたんですか?」  そして気づいてしまった。ずっと俺の気づかないところで見ていたはずのヒバリさんがなぜ今になって俺の人生に登場したのか。  もしかしてこの人は、俺が思っているよりも俺のことを大事に思ってくれているのだろうか。  へたりと座り込んでいる俺をどかしてのそのそと起き上がったヒバリさんは、たっぷり時間をかけたけど否定の言葉を吐かなかった。  それなのに視線はまた俺から逸らされ、ぴったりの答えを探すみたいに口を開け閉めしている。 「いいか。俺からしたら、お前はついこの間まで生まれたばっかの子供だったんだぞ。転んでわんわん泣いてるガキ。それに対してどうこうとか思うのなんか、やばいだろうが」 「その節はお世話になりました。おかげさまですっかり成長しました。あとそれってもう俺のことどう思ってるのか暴露した上での言い訳ですよね?」  なかなか素直に気持ちを認めてくれない、というか口に出してくれないヒバリさんに詰めよれば「ぐぅ……」と唸られた。人のぐうの音を初めて聞いた。  ある意味俺よりも人間らしく常識人なヒバリさんがいっそもう可愛い。  こんな気持ち吐露されたら、好きな気持ちしか溢れてこないに決まっているじゃないか。 「俺が吸血鬼なの忘れてんのか」 「わかってます。吸血鬼なヒバリさんとてもかっこいいです」 「吸血鬼に対するアルカがどれだけやばいかわかってないだろうが。歯止めが利かなくなるんだよ」 「でもそれって二つの意味で美味しくないですか?」  食欲的にも肉体的にも、ついでに俺的にも美味しいからむしろ三つの意味で、かもしれない。  学生的なもだもだもときめくけど、俺としてはもっと大人の付き合いがしたい。 「もう言い訳終わりました? ……って、うわっ!」  認めちゃいましょうよーなんて茶化そうとヒバリさんを肘でつつこうとしたタイミングだった。 「お前もう黙れ」  背中にソファーの感触、目の前にはヒバリさん越しの天井。つつこうとした手はしっかりと押さえつけられている。  ほんの一回のまばたきで、状況ががらりと変わっていた。

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