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鬼の心エサ知らず 7

「俺は抑えたからな。何度も何度も、ありえないくらい」  いつの間にか俺に覆いかぶさっていたヒバリさんが、俺に言い聞かすように強い口調で告げる。その瞳がほのかに赤くなっている。  てっきり血を吸った時に赤くなるのかと思っていたけれど、どうやらこれは欲の証であるらしい。それに気づいて、心臓が激しく鳴り始める。 「欲しくないわけないだろ? 吸血するたび腕の中でよがるお前に、俺がなにも思わないと思ったか?」 「お、思ってないのかと……」 「何年も見守ってきて『特別』だと思った人間の血を吸ってなにも思わないとでも? そんなわけねぇだろ。それでも抑えたのはお前を傷つけないためだ。吸血鬼に愛された人間なんか悲惨でしかないぞ。それなのに、お前は無邪気にとことん煽りやがった。その意味がわかるか?」  俺を押さえつける手に力がこもり、その加減でヒバリさんがどれだけ本気で怒っているのかがわかった。  こんな状況で、めちゃくちゃ怒られている。  だけど待ってくれ。今とんでもない言葉をたくさん言われた。  怒りに染まったその顔は壮絶な美とでも言うほどに恐ろしくかっこよくて、見惚れそうになりながら必死で頭を動かす。流されそうな大事な言葉をちゃんと受け取りたい。  吸血鬼に愛された人間。それって俺のことだよね? そう受け取っていいんだよね? そんなヒバリさんに好きと言って、受け入れて、その結果どうなるか。 「かっこいいヒバリさんがずっと見られる?」 「……もういい。知らねー。ガキ相手だと思って耐えてきた俺の我慢を知れ」  そうやって呆れたように吐き捨てたヒバリさんは、片手で俺の顎を掴んで口を開けさせるようにキスをしてきた。今までとは意味の違う、貪るような荒いキス。 「ん……、んっ、ふ」  呼吸さえも許さない溺れそうなキスを何度も何度も繰り返して、ヒバリさんは簡単に俺を蕩けさせた。これがまだまだ始まりだなんて思えないほど息が上がる。  そんな風に俺を骨抜きにしてから、一度体を起こしたヒバリさんは邪魔そうにシャツを脱ぎ捨てた。それがまたかっこよすぎて体が熱くなる。 「ヒバリさん、ほんとかっこいい……」  自分でもわかるほど蕩け切ったその声を聞いて口を開こうとしたヒバリさんが、なにかに気づいたように外を見る。そして口元をにぃっと笑みの形に歪めた。まるで悪い吸血鬼のよう。 「お前はとことん運が悪いな。吸血鬼に愛されるだけでも可哀想だってのに、あげくに今日は満月だ」  それがどういう意味を持つのか、蕩けた思考より体に思い知らされるのはそれから長い永い時間かけてのことだった。

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