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龍介は、俺を強く睨み付けている。
そうしながらも、俺を落ち着かせようとしているのだろう。なにかを押し殺したような声で、俺に【現実】を教えてきたのだから。
「お、とう、と……ッ?」
頭が、龍介の言葉を理解するということを、拒んだ。
けれど、どこか冷静な部分が残っていたのだろう。
視線が、龍介から外される。そのまま、目の前で黙って俺に抱き締められている男を、見た。
青年はほんの少しだけ、目を丸くしている。……しかし、なにも言ってこない。
目だけで『状況を理解できていない』と、俺に訴えてきているのだ。
その青年は、冬樹──に、よく似た顔をしていた。
──龍介は今、なんて言った?
──『弟』って、言ったのか?
そこで不意に、冬樹の話を思い出した。
『オレの弟、オレに似てマジで美形なんだぜ! ニコリともピクリとも笑わねぇんだけど、そんなクールなところも兄のオレとそっくりなんだよな!』
そう言えば、冬樹には【冬樹によく似た弟がいる】らしい。
それじゃあ。
……つまり?
「…………お、れ……ッ」
頭が真っ白になり、フリーズしかける。
俺の肩を、龍介がもう一度引っ張った。
龍介の握力で。
そして、微かに走った痛みに。
──俺はようやく、事態を理解した。
弾かれたように、冬樹の弟と思われる人物を、腕から解放する。
「す、すまんッ! イヤ、違う! すみませんでしたッ!」
泣き腫らした目をしている親御さんも、驚いたような顔で俺を見ていた。
ついさっきまで『親御さんに一言挨拶をしなくては』と、思っていたはずだったのに。
──俺は、とんでもないことをしでかしてしまったのだ。
冷静に考えれば、すぐに分かることだった。冬樹は、死んだんだって。
俺はそう、理解していたはずだったのに……ッ。
「その、俺──」
言い訳にしかならないとしても、なにか言わなくては。焦る俺と冬樹の家族との間に、龍介がそっと、割って入った。
「スミマセン。この人、冬樹サンの同居人で【火乃宮平兵衛】って言います。ボクは、火乃宮の友人です。火乃宮、冬樹サンが死んでショックが大きくて、まだ理解しきれてないみたいなんです。……動揺して、ご迷惑をおかけしてしまいました。ホント、スミマセン」
言葉が出てこない中、ムリヤリなにかを絞り出そうとする俺よりも、よっぽど有益で有用。俺の声を遮った龍介が、代わって弁明をしてくれた。
──サイアクだ。
──やっちまった。
よりにもよって、遺族の方に迷惑をかけちまうなんて。
サイアクで、サイテーで。
──してはいけないことを、してしまった。
しかも、ただ迷惑をかけただけではない。
──俺がしでかしたのは【死んだ冬樹のことを強引に掘り返すようなマネ】だ。
不謹慎、極まりない。どう考えたって、あり得ないだろう。
冬樹が言っていた通り、弟君はパッと見、冬樹に似ている。
……だが、よく見ると違う。
冬樹の目は、温かい印象を与える。
だが、弟君は冬樹と違った。どちらかと言うのなら、冷たい印象だろう。
身長も、冬樹に比べたら少し低い。
髪型だってそうだ。前髪が目を隠しているのは、同じ。だが、分け目が逆。冬樹は前髪を右に分けていたが、弟君は左に分けているのだ。
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