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 よく見ると、冬樹との違いはあった。  それでもヤッパリ、印象は似ていたのだ。 「似て、た、ので。本当に、すみません……ッ」  なんの意味もない、言い訳がましい言葉。  大人らしからぬことを言っているのは、分かっている。それでも俺は、深々と頭を下げた。……逆を言えば、それしかできなかったのだ。  そうすると、静かな声が贈られた。 「火乃宮さん、ですか? ……そう。あなた、だったんですね」  声は、女性のもの。  顔を上げると同時に、声の正体に気付く。冬樹の母親と思われる女性が、小さく微笑んでいたのだ。 「──最後まで冬樹と仲良くしてくれて、ありがとうございました」  父親と思われる男性も、小さく微笑む。  その後すぐ、二人は揃って頭を下げてきた。 「いや、いえ……っ!」  慌てて俺も、深々と頭を下げる。  きっと冬樹は、とても愛されていた。冬樹は、家族を愛していたのだ。当然、同じくらいの愛を与えられていただろう。  頭を上げてから、親御さんと視線を交える。  二人からもどことなく、冬樹と似た印象を受けた。温かくて、どこか落ち着くような、優しい印象。  親御さんから視線を外し、もう一人の家族を見る。……俺が誤って抱き締めてしまった、冬樹の弟君だ。  弟君は親御さんのように頭を下げていたわけでもなく、ただただ、俺を見ていた。  もしかしたら、俺を不審に思っているのかもしれない。すかさず、俺は弟君に頭を下げた。 「本当にすまな──すみません、でした、失礼なことを、してしまって」 「……っ。お気に、なさらず」  弟君は一度、瞳を瞬かせる。だがその後すぐに、小さな声を俺に返した。  相槌を打ってくれた後、弟君の唇が、微かに動く。  なにかを言いたげに動いた、弟君の唇。しかし、そこから紡がれる言葉はなかった。 「行くぞ、平兵衛」  これ以上、道を塞ぐわけにはいかない。おそらくそう思ったであろう龍介が、またもや俺の肩を引っ張ったのだから。  龍介の声に、弟君から視線を逸らそうとした、その瞬間。 「落ち着いたら一度、うちの和食を食べに来てください」  冬樹の母親が、そう言ってくれたのだ。  そのままもう一度、父親と揃って、俺に頭を下げてくださった。今度は弟君も、親御さんに合わせるかのよう、頭を下げる。  ──是非。  そんな簡単な一言も、紡げない。  代わりに俺は、たった一言。 「失礼、します」  そんな、味気ない言葉を呟いてしまった。  俺と龍介はそれ以上、ご家族にはなにも言わずに。  冬樹の葬儀場から、ゆっくりと離れた。 「アホ平兵衛。この貸しはデケェからな」 「分かってる。……メイワクかけて悪かった、龍介」 「しみったれた顔で言うなよ、ボケ平兵衛。詫びの品でも持って、もう一回わざわざ手間をかけてでも言いに来いや」 「あぁ。そうする」  一度だけ、葬儀場を振り返る。  ──サヨナラ。  その言葉だけは、どうしても。  ……言いたく、なかった。 1章【親友の弟と初めて会って、】 了

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