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冬人君の行動に、面食らう。
だが、呆けている場合ではない。
「……あっ、オイッ!」
すぐに冬人君を追いかけて、俺も冬樹の使っていた部屋に入る。
中で冬人君は、扉を開けたまま、固まったように止まっていた。
「オイ、冬人君? どうしたんだよ、いきなり」
「ここが、兄の部屋?」
冬人君は部屋の中をグルリと見渡してから、呟く。
「──兄が、部屋を……綺麗にして、いる」
本心からの、呟き。
……瞬間。
──俺は思わず、吹き出してしまった。
「ブハッ! そ、そんな、しみじみと……ふっ、ハハッ!」
「っ! い、いきなりなにっ。……です、か」
「あ、あぁ、悪い。俺が勝手に片付けちまったんだ。だから、本当はすっげぇ汚い部屋で……ハハハッ!」
突然笑い出した俺に驚いているのか、冬人君は俺のことを目を丸くしながら見てきたのだ。……眉間にシワは、寄せたままだがな。
イヤ、これは仕方ないだろう? だって、マジな声のトーンでなにを言い出したかと思ったら、部屋がキレイなことに驚くって……。
笑うだろ! 不意打ちすぎて!
「イヤ~、悪い悪い! 冬樹は実家でも部屋散らかしてたんだなぁって思ったら、笑っちまって!」
「あっ。えっ、えぇ、まぁ……っ」
冬人君は一度頷いた後、また部屋を見る。
「家具の統一感はなかったし、服が畳んであるところは見たことがない。……なかった、です」
ほぼ独り言のように、冬人君は呟く。
だが、俺が聞いていることを失念していたと、気付いたのだろう。慌てて、敬語を付け足している。……そんな姿を見ると、会ったばかりの冬樹を思い出した。
冬樹と、初めて会った時。あっちは高校生で、俺は二十歳を超えていた。
テレビや雑誌で何回も俺を見たことがあったからか、実際に会ったのは初めてなのに、冬樹はうっかりタメ口を使ったのだ。
『あ、火乃宮平兵衛だ! ……さん、だ! じゃなくて、ですね!』
最初は一応、注意したりしていたさ。
だが、部屋に来たりするようになった頃には、注意しようという気も起きなくなっていた。
『平兵衛はいい奴だよな!』
気付けば、呼び捨てにもなっていたっけ。
それでもアイツは、仕事とプライベートで敬語とタメ口を使い分けていた。だから俺は、二人きりのときに敬語を使われなくても、なにも言わなくなったのだ。
──って、なにやってるんだ、俺は。
──また、冬樹と冬人君を重ねている。
不意に、冬人君が俺を振り返った。
「火乃宮さん」
「おう、なんだ?」
冬人君の、どこか冷たい眼差し。
──冬樹とは、全然違う。
そもそもアイツは、もっと図々しい奴だった。
だけど、冬人君はそんなことない。まだ俺との距離感が掴めていないだけだろうけど、それを踏まえても、冬樹とは違う。
……けど、こういう真剣な顔をして黙っている冬人君は……。
──くだらないことを真剣に考えていた時の冬樹と、似ているな。
……あぁ、クソ。まただ。
ヤッパリ、重ねてしまう。
そんなこと、考えたくねぇのに……ッ。
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