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あれから、数週間。
冬人との共同生活が始まって、会話も増えた。まるで、冬樹が居た頃のようだ。
俺と冬人は、楽しく日々を過ごしている。
──とは、なっていないのが現実。
「──お疲れ様でしたー」
冬樹の死後。
事務所の意向ではあったものの、俺自身の気持ちを整理するために一週間も休んだツケ、なのだろうか。
冬人と初仕事を終えた後に、マネージャーから言われたスケジュール。それらに、俺は忙殺されていた。
撮影、撮影。雑誌用のインタビューに、ラジオ収録。そしてまた、撮影。
色んなところを、行ったり来たり。とどのつまり……なかなか、あのマンションに帰る暇がなかったのだ。
最初の一週間は地方のロケに行っていて、そこそこゆとりのあるスケジュールだったと思う。
だが、そこから怒涛の二週間。……まさかの、休み無し。
一日の睡眠時間は、車や電車等で移動中の仮眠も含めて、三時間。さすがに、二十代とは違ってアラサーの体ではムリがあると、痛感してきた。言い訳やプライドなどなどを取っ払って言わせてもらうと……正直、疲労を感じています、はい。
……俺、さっきの仕事ではちゃんと笑えていたのか? そう、自問自答をしてしまうくらいだ。
さっきまで、俺は正月明けに放送されるバラエティ番組の収録をしていた。
その撮影が終わったので、順次、スタッフや共演者が控室に戻る。俺も周りと同じように挨拶をしてから、与えられた控室に戻った。
一人の部屋でイスに深く腰掛けながら、弱音じみたことをぼんやりと考える。
……あの日。冬人は部屋の掃除かなんなのか知らないが、一歩も部屋から出てこなかった。
メシを作っておいたが、食べたのかすら知らない。翌日の早朝からロケがあったから、冬人に会うこともなく、出掛けてしまったからだ。
だから、この数週間。冬人がなにをしているのかさえ、知らない状況だ。……『知らない』とは言っても、初仕事の後マネージャーとスケジュール確認をしたのはチラッと聞いたから、なんとなく分かるが。
宣材写真の撮影に、雑誌の撮影。他の雑誌では【死んだ兄の後にデビューが決定した弟に、独占インタビュー】的なことをされるはずだ。
モチロン、不謹慎だと俺は思う。
だけど、結局そういうゴシップ的なものは、いつの時代だって好まれるものだ。事務所だって、利用できるのであれば利用するだろう。
──問題は、冬人の気持ちだ。
冬人はマネージャーと打ち合わせ中、特に表情を曇らせることも、怒った様子もなかったように見えた。
打ち合わせが終わってから一緒にエレベーターに乗ったりしたが、動揺している様子でもなかったし、よく分からない。
そういう扱いをされると分かっていながら、冬樹の代役として撮影することも、ましてやデビューだって決めたんだろうし……。
目を閉じて、冬人の顔を思い出す。
──思えば、この二週間。冬人のことを考えてやれる時間、なかったな。
言い訳をするようだが、本当に忙しかったんだ。
一週間のブランク──と言えるほどではないが、休暇の後でいきなり過酷な労働を強いられたんだぞ。スーパーなダーリンじゃねぇただのアラサーが、他人の心配なんかできるかよ。
だが、今になってやっと、冬人のことを考える余裕ができたらしい。
今さっきの撮影が終わった瞬間、俺は明日の昼まで予定がない。……つまり、念願の休みということだ。
浴びるほど酒を飲みたいし、ちゃんとベッドで体を休ませたいぞ!
ロケ弁もマズいってことはないが、俺は俺で食いたいモンもあるんだ。
これから俺はマンションに戻って、短いながらも休暇をエンジョイする!
すぐに俺は、腕時計で時刻を確認した。……ふむ、マンションに着く頃には夕方の六時か。
晩酌して、ゆっくり風呂に入って、グッスリ寝る。そんな休暇のエンジョイをするには、ちょっと時間が余るくらいだ。
時間があるのに越したことはないが、そうだな……?
──一回、龍介のとこ行くか。
そうと決まれば、善は急げだ。
俺はイスから立ち上がると帰る準備をし、必要なことを全て終わらせてから、足早にテレビ局から出た。
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