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俺は、部屋の掃除を。
龍介は漫画を描きながら、会話をする。
そう言えば、まだ龍介に話してなかったよな。……その程度の気持ちで発した言葉だったのだが、どうやらそこそこの衝撃を与えてしまったらしい。
──まぁ、そうなるよな。
燃えるゴミをまとめ終わり、最後は燃えないゴミとその他だ。俺は作業を続けながら、冬人が部屋に来た経緯をポツポツと話した。
……全てを聴いた後。
「──つまり? 死んだ兄貴を感じるために、わざわざ知らない男と同居し始めたってことか? 生粋のブラコンじゃねェか、その弟クンはよォ?」
まるで、一刀両断。
龍介は辛辣な言葉を放った。
「難儀なもんだなァ、平兵衛? 圧倒的な巻き添えだろ、ソレ。ヤ~イ、被弾被弾~! 爆死爆死~ッ!」
「死んでねぇっつの」
気付けば龍介は、いつの間にか机ではなく俺の方を見ている。
どうやら、龍介は【平兵衛がブラコンに迷惑を掛けられている】と解釈したらしい。つまり、この言い方は煽っているのではなく、龍介なりの心配なのだ。
なんだかんだ言って、龍介は狭く深い付き合い方をする。そもそも人間嫌いで、俺以外だと家族とすら仲が良くない。
だからこそ家を出て、一人で暮らしているくらいなのだから。
「そんなモンに付き合う必要ねェだろォが。そんなことに時間割いて精神摩耗させるくらいなら、もっとボクの世話でも焼いとけっての。……くっだらねェ、マジで」
「……心配してくれて、ありがとな」
「おめでたミラクル回路かよ、キッモ。【心配】じゃねェよ。より有意義な時間の使い方を教えてやったんだろォが。解釈違いとかマジ死ねって感じだぞ。漫画家嘗めんな」
「曲解すぎるだろ。全国の漫画家に謝れ」
龍介からすると【平兵衛以外は悪】という認識があるのかもしれない。……俺からすると、そんな龍介の方が【難儀】な気もするが。
俺は冬人が迷惑だとか、ましてや愚痴のつもりで話したんじゃない。
だが、龍介は心配してくれてるんだろう。
「ってか、芸能界入ったのだって変な話だろォ? 死んだ兄貴に成り代わろうとしてるんじゃねェのォ?」
確かに、タイミング的には【兄のスキャンダルを利用しての売名行為】に見えるかもしれない。
──だが、あの時の様子は……。
一緒に撮影をした時のことを、思い出す。
冬樹の代役をしようと、努力していたのは伝わった。
でも、芸能界に入って有名になりたいとか。……ましてや『有名人に会いたい!』といった下心のようなものは、感じられなかった。
「死んだ兄貴の荷物全部渡して、サッサと追い出したらどうだァ? 強盗じゃないにしても、胡散臭いだろォが」
「俺には、そうは思えないって言うか……。どうにも、放っておけないって言うか……」
ハッキリしない俺の物言いに、興味がなくなったのだろう。龍介は「ケッ」とだけ言うと、また机に向かった。
「どォ~でもい~わァ~」
それだけぼやくと、なにかをメモしていた紙をグシャグシャにまとめて、後ろへ放り投げる。……オイ、掃除したばかりだぞ。
それはアレか? 心配してやってるのに冬人を追い出そうとしない俺への、小さな反抗のつもりか?
龍介が放り投げた紙を燃えるゴミの袋に入れて、俺は全てのゴミ袋をキツく縛る。
「一応、龍介に顔を見せに来たのと……まぁ、近況報告ってことで」
ゴミ袋を持って、俺は作業をしている龍介の背中に声をかける。
「また、そのうち来るわ。……礼。なにか思いついたら、言ってくれ」
それだけ言い、ゴミ袋を玄関の通路まで運ぶ。
ここまでやっておけば、後は龍介自身がゴミの日に袋を出しておく。暗黙の了解、のような感じだ。
「じゃあな、龍介」
ゴミ袋の運搬を終え、そう声をかける。
龍介はペンを持っていない方の手を、軽く上げた。
「へいへェ~い」
小さく左右にフラフラと振られた、龍介の手。
それからまた、龍介は作業に戻った。
3章【親友の弟と同居を始めて、】 了
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