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 頭も体も顔も洗った後。お湯に浸かりながら、ぼんやりと考える。  ──今さら気付いたが、冬人と普通に話せたな。  久し振りの休日で、気持ちが舞い上がっていたのかもしれない。冬人が来た初日とは違って、普通に話せたのだ。  ……イヤ、違うか。変な気を回せるほど、心に余裕が無かったのかもしれないな。  でも、これはこれでむしろ、ありがたい。  湯船に肩まで浸かり、大きく伸びをして安堵の息を漏らす。  龍介の部屋から出た後。スーパーで買い物をしている時だって、不安はあった。冬人と上手く話せる自信が、全く無かったからだ。  だが、いざ会ってみたらどうだろう。驚くほど普通に話せたじゃないか。  ……それに。  ──笑顔が、見られた。  年相応な笑顔を、今なら直視できるのだろうか。……いや、ムリそうだ。  冬人だって、俺や冬樹と同じ、人間。笑うくらい、当たり前なのは分かっている。  だけど、俺が知っている冬人は【笑顔】とは縁遠い。不機嫌そうな顔か、難しそうな顔をしてばっかりだ。  そんな冬人の笑顔は、貴重な気がする。……それとも、意外と冬人は表情を崩すのか?  まだあまり冬人と関われていないから、普段がどうなのかは分からない。だが、それでもヤッパリ貴重な気がする。  それに、冬樹と同じく──冬樹以上に、冬人はキレイな顔立ちだ。  そのせいか、笑うとどことなく……可愛い、気もする。  そして、これは確実な自惚れなのだが……笑みを向けてくれるくらいには、俺に気を許してくれたのかもしれない。  ……今日なら、訊ける気がする。  ──冬人が、冬樹の代役を承諾した理由。  ──どうして、事務所に所属しようとしたのか、ということが。  目を閉じて、心の中で呟く。  ──冬樹、安心してくれ。  ──ちゃんと俺が、冬人の面倒を見るからな。  * * * 「おぉ~っ!」  風呂から出てすぐに、俺は感嘆の声を漏らした。  リビングに置いてある、四人掛けのテーブル。その上に冬人が、シチューを並べているところだったからだ。  皿は、ふたつ。どうやら、俺の分も用意してくれたらしい。  モチロン、表面は炙られていない。オリーブオイルの空きビンも、見当たらなかった。このシチューには、オリーブオイルが一本まるまるかかっていなさそうだ。  たったそれだけのことなのに思わず感動してしまうくらいには、俺の中で冬樹のインパクトはデカかったらしい。 「口に合うかは分からないが、作った。迷惑ではないのなら、食べてくれ」  風呂上がりの俺に気付き、冬人がそう言う。  俺の分も用意してあるところを見ると、冬人も冬人なりに俺との共同生活を考えてくれているんだろう。  さっきのまな板騒動のおかげか、最初の頃に感じていた警戒心を、今は冬人から感じない。そういった思いも込みで、なおさら感動してしまった。  突然、軽快な音が鳴る。電子レンジの音だ。  なにかを温めていたらしい冬人は、電子レンジの中から皿を取り出した。……それは、さっき見た唐揚げだ。 「本当は揚げ直したかったが、時間が無かったから」  淡々と説明し、テーブルの上に皿を置いた。  皿は、ひとつ。  今の説明から察するに、もしかして……? 「その唐揚げって、俺の分か?」  皿を指さすと、冬人は小さく頷いた。  ──そして、驚きの言葉を口にする。 「──毎日二人分の料理を作っていたが、平兵衛さんは私が思っていた以上に多忙だな」  冬人はそう言いながら、冷蔵庫からわざわざ缶ビールを一本持って来た。  それを俺の前に置くと、冬人は俺の正面に……。  ……なに?  ──今、冬人はなんだって?

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