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冬人の頭から手をよけて、もう一度笑みを浮かべた。
「よし! せっかく冬人が用意してくれたんだし、冷めちまったら勿体ねぇな! 食うとしますかね!」
まだ不愉快そうな顔の冬人が、ジッと俺を睨んでいる。
俺はそんな冬人をスルーして、大きく『パンッ』と音が鳴るくらい強く、手と手を合わせた。
「いただきます!」
食前の挨拶をしてから、冬人が作ったシチューを食べ始める。
冬人は冬人で不可解そうな顔をしているものの、気持ちを切り替えたのだろう。俺を見て、冬人も食事を再開したのだから。
炙ってもいないし、オリーブオイルも入っていないシチュー。素朴な料理だが、想像以上にウマい。
素直に、俺は感想を口にした。
「んぉっ、ウマい! 冬人は料理上手だな!」
「そうか、ありがとう。シチューくらい、誰でも作れると思うが」
「マジだって、マジ! もっと嬉しそうにしろよな、冬人~」
「まだ飲んでもいないのに、絡み酒か」
冬人の反応は、やはり素っ気無い。返事をしつつ、冬人はおもむろにリモコンを持って、テレビをつけた。
この時間帯──夕方と言えば、ニュース番組。テレビを眺めて、冬人は黙ってメシを食う。
俺はニュースを聞き流すようにしながら、ビールを一気に飲み干した。
「……っぷはぁ! 効くぅ~っ!」
口をついて出た感想。それが不思議だったのか、冬人はニュースではなく俺に視線を向けた。
あ~……たぶん、ビールが気になっているんだろうな。それとも、ビールひとつではしゃぐ俺の方か?
しかし、冬人はそれらを口には出さない。なにも言わずに冬人は立ち上がって、もう一本、缶ビールを冷蔵庫から持ってきてくれた。
「おう、悪いな! サンキュ、冬人!」
「別にこれくらい、構わない」
相槌を打ち、冬人はイスに座る。
「……お前さんのその話し方、誰かの影響なのか? 一人称も『私』だし」
思わず『冬樹と違って』と付け足しそうになるが、寸でのところで堪えた。そんなモン、いちいち指摘する必要はないだろう。
言葉と共に、ビールをグッと飲み込む。
咀嚼していたシチューを飲み込んだ後、冬人は答えた。
「父の影響だ。父も自分の父──私からした祖父の影響らしい。祖父はとても厳格な人で、口調もキツイ」
つまり【自分の話し言葉がキツイ口調だ】っていうのを、冬人は自覚しているってことか。……とは、当然言わない。
「冬人の爺さんって、そんな厳しい人なのか?」
「私が知る人の中で、一番だ。祖父の笑顔を、私は見たことがなかった。もう、随分と前に亡くなったが」
「そう、なのか。……なんか、悪いな」
「数年前の話だ。私の中で、折り合いはついている。だから、気にしていない。……とにかく、私の話し方は父や祖父の影響だ」
なるほどなぁ。……それに比べて、なんだって冬樹はあんな、頭が悪そうな喋り方なんだろうな?
また、要らん言葉を紡ぎかける。
失言をしないよう、俺はもう一度、ビールを口に含んだ。
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