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 高圧的な物言いに、頭もいいときた。  そうきたら確かに、子供のうちだと同年代とは仲良くできないだろうな。  幼い冬人の価値観が、そのままこの年まで成長しちまったってことか。 「平兵衛さんが指摘した通り、一人称は『私』だが……きっと『俺』の方が、私には合っていると思う」 「そうか? ……一応言っとくが、俺は別にそういう嫌味なつもりで言ったわけじゃないぞ?」 「分かっている。ただ私は、父や祖父のような立派な人にはなれていない。自分自身をそう評価しているから、そう思っただけだ」  自嘲気味に言う冬人が、ほんの少しだけ弱く見えた。だから俺は、唐揚げをつまみながら思わず。  ──つまらない反論を、してしまった。 「──だったら、お前さんだってキレイな顔してるから『私』っていう一人称、似合ってると思うぞ? 高圧的な物言いも堪らんしな」  ──瞬間。 「は、っ?」  冬人が、本気で驚いたような顔をする。覗く片目が、キョトンと丸くなっていた。  そして、しばらくすると……。  ──みるみるうちに、顔を赤くしていったではないか。 「……ン? どうした、冬人? 顔、赤いぞ?」 「そんなことは、ない。断じて、ない」 「イヤ、あるって。お前さん色白だから、赤くなると誤魔化せないぞ?」 「そ、れは……っ。……平兵衛さんが、変なことを言うからだろう……っ」  指摘されて恥ずかしくなったのか、冬人は俺から顔を背けた。  ──『変なこと』って、どの辺りだ?  ──『キレイな顔』って評価のことか? 「キレイな顔してるだろ、お前さんは。今まで言われたことなかったのか? 見る目ねぇなぁ、周りの奴は」 「そっちじゃ、なくて。……その、後に言ったことが……っ」 「『その後』だぁ?」  どうにも冬人は歯切れが悪いし、回りくどい。  さて、なんのこと──。 『高圧的な物言いも堪らんしな』  その後に言ったのは、これだよな?  ──ンン?  ──『堪らん』だって?   「「……」」  お互いに、黙り込む。  グラスに口をつけて、焼酎を一口。  あ~……なるほどな、そっちか。  おう、そうか、そうだよな。  いきなりそんなこと言われたら動揺するよなぁ、分かる気がするぞ。  なるほど、なるほど──。  ──なに言ってんだ、俺はッ!  思わず、口に入れた焼酎を吹き出しそうになる。  いくら疲れていて、尚且つ酒を飲んで気が緩んでいるって言ったって、その発言は許されねぇだろ! スケベオヤジか、俺はッ! もっと他の言葉があるだろう!   なにか弁解をしようと、冬人を見る。だが、冬人はまだ、俺から顔を背けたままだ。  しかし、俺からの視線には気付いているのだろう。 「ジロジロと不躾な目で、私を見るな……っ」  物珍しさから凝視していると、イヤがられてしまった。……まぁ確かに『堪らん』って言われた相手からジロジロ見られたら、イヤだよなぁ。  だが、なんと言うか……。  ──警戒しているネコのようで、どことなく可愛い。  ……って言ったら、マジで引っ掻かれそうだな。

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