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冬人は、俺から視線を逸らす。
しかし黙ったままで、否定はおろか、決意を撤回するような言葉も紡がない。
……思っていたよりも、強情だな。もう少し露骨なアクションを起こさないと、冬樹の代わりなんてムリだって思えないか?
距離を詰め、冬人の耳朶へ唇を寄せた。
「冬人」
「……っ」
低く囁くと、冬人が小さく、身を震わせる。
「へぇ? そういう反応するんだな?」
そう囁いてからおもむろに、冬人の腰を服の上からなぞってみた。
「な、っ」
いきなり触られるとは、思っていなかったのだろう。思わず笑ってしまいそうなほど、冬人は過敏に反応した。
……過敏に反応した理由は驚きだけじゃなくて、おそらく警戒心もあるだろうがな。
「ムリなんだろ? 男の相手なんて。……だから、お前さんは冬樹になれない」
「なに、して……っ」
服の中に手を入れて直接、冬人の腰を撫でる。
俺の手に呼応するように、冬人の体が小さく震えた。
「諦めろ」
そう言い残し、俺は冬人から離れて、テーブルに戻る。
……さて、と。これで少しは、身の危険を感じてもらえただろう。自分には冬樹の代わりなんてムリだと、諦めてくれたはずだ。
となると……残された問題は【どのタイミングでウソだと教えるか】だな。
このまま一生騙すのは、さすがに死んだ冬樹が浮かばれない。
アイツは冬人も知っている通り、正真正銘のノンケだ。普通に、巨乳の女が好きだった。
イスに座り直した俺は、残っていた缶ビールを一気に飲み干す。
そして意味もなく、俺はバラエティ番組を眺めた。
……それにしても、明日からどうすっかなぁ。
冬人の中で、俺は完全に【危険なホモ】だ。数分前までのように楽しく談笑なんて、きっともうできないだろう。
……まぁ、俺自身が避けられるのは仕方ない。
それで冬人がバカな考えを改めてくれるなら、このくらい犠牲のうちにも入らないさ。
テレビの画面が、コマーシャルに切り替わった。
──その時だ。
「──平兵衛さん」
いつの間にか。
冬人が、俺に近付いていた。
「うぉッ! な、なんだよ……?」
そのまま、自分の部屋に逃げるだろうと。そう、思っていたのだが。あろうことか冬人は、近付いてきたのだ。
──諦める気になった、のか?
冬人は小さく震えたまま、俯いている。
俺は冬人が今、どんな顔をしているのか、下から覗き込もうとした。
──すると。
──冬人は、その場に座り込んだ。
……これはいったい、どういうことだろうか。
バカなことを言っていると自覚したから、俺に謝ろうとしている?
まさか、そのためにわざわざ座った、のか?
だが、コイツならそのくらい大袈裟なことをしない……とも、限らない。
意図が分からず、俺はただただ動揺する。
座り込んだ冬人は、黙ったまま。
──黙ったまま、突然。
「──なッ! オイ、冬人!」
──冬人は力任せに、俺のズボンを引っ張り始めた。
モチロン、俺はイスに座っている状態だ。つまり、思うようにズボンは下がらない。
それでも、冬人は半ば強引にズボンを下げようとしてくる。
──いったいなにがしたいんだ、コイツは?
妙な攻防戦が、幕を開いた瞬間だった。
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