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──どういうことだ?
一先ず、冬人の肩を押して距離を取ろうとする。
冬人にとっては残念だろうが、俺の方が腕は長い。冬人の手は、あっさりと俺のズボンから離れた。
「なにをする……っ」
「それはこっちのセリフだ! なにしようとしてんだよ、お前さんは!」
ずっと俯いていた冬人が、ようやっと顔を上げる。
冬人の顔を見て、俺は……。
「──兄は、平兵衛さんを悦ばせていたんだろう……っ」
──驚愕した。
──冬人が、真っ赤な顔で俺を見上げているのだから。
冬人の行動と、セリフを推理しよう。
強引に、冬人は俺のズボンを下げようとした。その理由を訊いたら、冬人は【恋人である冬樹】を引き合いに出したのだ。
──つまり?
──【そういう意味で】脱がそうとしたのか?
「なんだよ、冬人。お前さん、俺の相手をしてくれるのか?」
「……っ」
冬人は顔を赤くしたまま、顔を逸らした。
──なるほど。
──つまり冬人はまだ、冬樹になろうとしているのか。
さすがにここまでしてくるとは思わなかったが、仕方ない。
「意味、分かってるのか?」
気は進まないが、冬人をさらに脅す必要があるらしい。
冬人は俺とは目を合わせず、半ばヤケクソのように声を上げる。
「さ、触れば……いい、のだろう……っ」
「その口振りからするに……お前さん、経験はないのか?」
「あ、ある訳ないだろう……っ! 人付き合いなんて、必要最低限もしていない……っ! こんなこと、経験あるはず、ない……っ」
──なるほど。ウブな童貞か。
そんな強い口調で言うことでもないと思うが、冬人は真剣だ。
「いやに思い切ったな。お前さんはホモなのか?」
「そんなの、試したこともない……っ!」
「初恋は?」
「五月蠅い! さっきからなんなんだ! 私が色恋沙汰に疎くても、男のやり方くらいは知っている!」
ウブな反応だと思ったら、初恋もまだらしい。
指摘されて恥ずかしいのか、シンプルに不愉快だったのか……冬人はさらに声を荒げた。
……『男のやり方』っていうのは、つまり? さすがの冬人も【男の自慰行為は知っている】ってことだろうな。
要約すると『ただ男のモノを触ればそれでいい』って考えか。
少し我慢すれば、できなくはない行為。……そのくらいの考えだろう。
だが、それは俺の本意じゃない。冬人にそんなことを、させたいワケではないのだ。
つまりもう少し、脅す必要がある。
心は痛いが、俺のためだけじゃない。冬人と冬樹のためだ。
「──冬樹は口でシてくれたんだけどな?」
──冬樹よ、許せ。
──弟の中で、お前さんは立派な俺のカノジョになっちまった。
「……っ! く、口……っ?」
冬樹のためと思っているくせに、内容がどんどん現実的なものになっている。若干、巨乳好きな冬樹に汚名をかぶせている気もするぞ。
「だから、お前さんにはムリなんだよ」
動揺している今こそ、攻め入ろう。
冬人の肩を押し、顔を背ける。
今度こそ、冬人の考えを改めさせることができたはず。
……そう、俺は本気で思っていた。
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