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6 : 5 *
食事を終え、就寝のための準備を全て終えた俺は、自室のベッドで横になっていた。
意味もなく天井を見上げて、ただただ呼吸をする。
……俺はいったい、冬人になにをしてやれるのだろうか。
ムリヤリ抱いて、嫌われて。それなのに冬人は、俺と一緒にいなくてはならない。
それは、なぜか。……冬人が【冬樹で在ろう】とするからだ。
「クソ……ッ!」
寝返りを打ち、目を閉じる。
もしも、あの夜。冬人をレイプした夜に、今の記憶を連れて行けるのならば。
……俺は、間違えたりしなかったのだろうか?
* * *
いつの間に眠っていたのかは、記憶にない。
だが、眠っていたのは確かだ。
「……なん、だ……っ?」
真っ暗な部屋の中で、俺は理解できない違和感によって目を覚ます。
金縛り。とは、違う。ただ一部分に、妙な違和感があるのだ。
しかも、その【一部分】というのが……。
──なんで、下半身が熱いんだ?
薄く目を開き、どうにか現状を理解しようと目を凝らす。
……そこで、俺は気付いてしまった。
「──冬人ッ? お前さん、なにやってるんだ!」
侵入者と、違和感の正体に。
先ず、侵入者。これは、今言った通り冬人だ。
冬人は、俺が寝た後に部屋の中へ入ってきたのだろう。
だが、そんなことはどうだっていい。……イヤ、良くはないが些事だ。
──着目すべきは【侵入者】の方ではなく【違和感】の方なのだから。
「は、ぁ……んっ、む……っ」
片目だけを覗かせて、冬人はくぐもった声を漏らす。
俺の呼び声に気付いてはいるはずだが、返事をするつもりはないようだ。
──イヤ、違うか。
「んっ、く……っ」
──返事が、できないのだ。
それは、なぜか。……簡単だ。
──なんで頼んでもいなければ命令もしていないのに、冬人の方からフェラしてきてるんだよ……ッ!
冬人の口は今、俺に対して返事をしている場合ではない。冬人の口は塞がっていて、言葉を発することができないのだ。
……そう。
──冬人は今、俺の逸物を懸命に咥えているのだから。
「やめろ、冬人!」
おかしい。むしろ、これを『おかしい』と言わずになんと形容したらいいんだ。
俺は確かに、冬人へ昨晩のことを謝罪した。そして俺は、確かに言ったはずだ。……『もう、冬人には手を出さない』と。
つまり、冬人がわざわざこんなことをしてくる必要がないのだ。
なのにどうして、冬人は俺の寝込みを襲ってきた?
……イヤ。バカか、俺は……ッ。
『どうして』なんて。そんなこと、どの口が言っているんだ。
冬人は一度、俺の下半身から顔を上げる。
そして、少し潤んだような瞳でジッと俺を見つめた後……。
「──兄は、こういうことを日常的にしていたのだろう……っ?」
複雑な感情が入り交ざったような声で、そう囁いた。
……『どうして』なんて。そんなこと、俺は分かっている。冬人は、冬樹になろうとしているのだ。
──俺の【恋人の代わり】に、なろうとしているのだから……。
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