いつもの不愛想な色は一切消えて、今にも泣きだしそうな、情けない顔で俺を見つめている。 「……なにをしたらいいのか、分からない」 　唇を震わせて、今にも涙がこぼれてしまいそうなほど瞳を潤ませて、まるで懇願でもするかのように、俺に向かって冬人が呟く。 「私は、私として……いったい、なにをしたらいいのだろう……っ？」 「冬人が冬人でいるためにか？　……じゃあ、まずは『悲しい』とか『苦しい』とか、そういう自分の気持ちを吐き出したらどうだ？」 「自分の、気持ち……っ？」 　俺は頷いてから、ニッと、冬人へ笑顔を向けた。 　そうすると、ついに……。 「──悲しい……っ」 　冬人が、大粒の涙を溢れさせた。 　俺は、そんな冬人の頭を笑顔のまま撫で続ける。 「なにが悲しいんだ？」 「兄さんがいなくなって、すごくやだ……っ」 「……おう」 「兄さんの笑顔が、もう一度見たい……っ」 「そうだな。……俺もだよ」 　思ったことを、ただただ口にするだけ。 　たったそれだけのことが、冬人はずっとできなかった。 　周りの誰も、それを吐き出させようとも。ましてや、受け止めてあげようともしなかった。 　……無論、それは俺もだ。 　一番近くにいたはずの俺すらも、冬人の悲しみを受け止める用意をしていなかった。 　遅くはなったけれど。手遅れなくらいの遅さだとしても、それでも……。 　──俺は冬人にとって、なんでも吐き出せる相手になりたい。 「うっ、ぁ……ふ、う……っ」 　年相応に泣き出して、俺の服の裾を掴んでくる冬人が、堪らなく愛おしく思える。 　……あぁ、そうだったんだな。ヤッパリ、俺はいつからか。 　俺は、冬人のことが……。 　──好き、なんだな。 　──俺は、冬人のことが好きだ。 　たった三文字のシンプルな言葉が、ずっと言えなかった。……言えるはずが、なかったのだ。 　今さら、どのツラ下げて『好きだ』なんて言えばいいのか。 　これだけ『本当の冬人を知りたい』と思っていた俺ですらも、冬人と同じく自分の気持ちが言えないでいたのか。そう思うと、自嘲的な笑みが込み上げてきそうだ。 　ずっと【好きだ】って思える兆候はあったのに、避けるようにして見ないフリをした。 　言い訳をして、隠して。気付いてはいけないと思っていた。 　いつからかと考えると、明確には分からない。 　分からず屋でバカなところも、不器用なんだと思えば可愛いものだ。 　家庭的なところは普通にポイントが高いし、顔は断然好みだった。……冬樹と似てはいるが、冬樹には抱いたことのない感情だ。 　本当に、情けなくてイヤになる。言い訳なんかをせず、もっと早く向き合っていたら。……向き合っていた、ところで……。 　──結局俺は、冬人を泣かせてしまったのだろう。 　冬人は俺の服の裾を掴む力を強くして、涙をボロボロと流している。 　それでも真っ直ぐと、俺を見つめてくれた。 「兄さんのために、なにかしたい……っ。だから、平兵衛さん、お願い……っ。どうすればいいのか、教えてほしい……っ」 　涙を流しながら、今まで決して俺に見せてこなかった弱さを隠さず、冬人はやっと【周り】を頼る。 　その相手に俺を選んでくれたのが、この上なく嬉しいと思う。 　だから俺は、笑顔のまま答える。 「そうだなぁ。……アイツ、目立ちたがり屋だったよな。だから、アイツの分も──アイツ以上に有名になるとか、どうだ？」 　冬人が、俺の言葉に目を丸くした。 「そもそも、アイツはきっとお前さんが『来ないで』って言っても、誕生日に会いに行ったと俺は思うぞ。だから、お前さんはなにも悪くないし、罪悪感とか持たなくていいんだよ」 「だけど、私のせいで──」 「冬樹を轢いたのはお前さんじゃないだろ」 　そう言い、キョトンとしている冬人の頭を、今度は乱暴に撫でてみる。 「わっ、うわっ」 　突然前後左右に揺さぶられるように撫でられ、冬人がグラグラと揺れた。