77 / 87
8 : 8
両腕でしっかりと、冬人を抱き締める。
すると、冬人はなにが起こったのか分かっていなかったのか……一瞬だけ固まってしまった。
だが、すぐに事態を把握したらしい。
「平兵衛さんっ! いきなり、なにをして……ッ!」
突然暴れ始めたかと思えば、冬人は全力で俺の胸を押し返そうとし、距離を取ろうとする。
だが俺は俺で当然、冬人を離すつもりはない。
「なんでそんなに可愛いんだよ、お前さん」
「かわ──ぅあ、っ!」
真っ赤になっている耳たぶに、堪らずキスをする。
話している途中だったのとビックリしたので、冬人は間抜けな声を出す。
「や、っ。へい、べ……くすぐっ、たい……っ」
「可愛いぞ、冬人」
キスだけではなく、耳朶に舌を這わせる。するとすかさず、腕の中で冬人はビクンと体を跳ねさせた。
「やめっ、舐め、な──ん、っ!」
「図星なんだろ」
「ちが──ひぅっ」
いつもの、どこか無機質な声とはまるで違う。ほんの少し。……だけど確実に、熱を持った声色だ。
セックスした時も思ったが、ヤッパリ冬人は敏感体質なんだろうか。キスをした段階で、胸に当てて抵抗していた手が、縋るように俺の服を握っているのだから。
「じゃあ、さっきのはどういう意味で言ったんだ?」
「意味、とか……っ」
「『意味なんてない』なんて、言わせるつもりはないぞ」
「あ、ぅ……っ」
耳たぶを甘噛みすると、またもや冬人の体がピクリと跳ねた。
「言ってくれ、冬人」
「や……っ! い、やだ……っ」
冬人はギュッと、俺の服を強く握る。
俺も冬人をキツく抱き締めて、耳元で囁く。
「冬人」
「……っ」
──観念したな。
小刻みに震えて、冬人は俺の首筋に唇を押し当てて、囁いた。
「──妬い、た。……ごめん……っ」
【胸が締め付けられる】なんて。そんなもの、悲しいときとか苦しいときだけに起こる現象だと思っていた。
……イヤ、ある意味今は【苦しいとき】か。
──冬人があまりにも、恥ずかしそうに震えているから。
──冬人があまりにも、いじらしくて。
──冬人があまりにも、可愛いから……っ。
冬人が握っている服の向こう側は、本当に【胸が締め付けられるような】感覚だった。
恥ずかしそうに、申し訳なさそうに。だけどどこか、甘えるような声色で冬人が認めるから。
俺は耳朶から唇を離し、俺の首元に唇を押し当てている冬人の肩を掴んで、距離を作る。
視線が合う距離に、お互いがいた。
「あ……っ。……平兵衛、さ……っ」
視線が絡み合うと、すぐに冬人の瞳が揺れ始める。
俺がそのことに気付くと、突然。
──冬人は、その瞳から涙を溢れさせた。
「ご、ごめ……っ、私は、わたし……っ!」
もしも、冬人が俺に対して。
──俺と、同じ気持ちでいてくれるのならば。
自分にとって都合がいいように、解釈しているだけかもしれない。だけど、もしもそうだとしたなら……。
──この涙の理由は、言われなくたって分かってしまった。
ともだちにシェアしよう!