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涙を流しながら、冬人はそれでも、視線を外さないで、俺を見つめている。
冬人の泣いている理由は、あくまでも憶測の息を超えない。
だが、もしも自惚れていいのならば……っ。
「私は、こんな……っ。こんな、つもりじゃ……っ」
──それは【罪悪感】だ。
だったらモチロン、謝るのは俺の方だった。
「違う。冬人、違うんだ。悪いのは俺だ、冬人……ッ」
「私は、兄さんの……っ!」
ボロボロととめどなく涙を溢れさせる冬人に、俺はようやく決意を固める。
──今しか、ないのだ。
確信を持って、吐き続けていた【ウソ】を告白する決心をした。
「──俺と冬樹は付き合ってなんかいなかったんだ!」
自惚れの域を出なくて、自意識過剰でしかなかったとしたら? ……そんなことを考えている余裕は、俺になかった。
「……え、っ?」
頭の回転が速い冬人でも、今まで【大前提】として置かれていたことが、突然『ウソだった』と言われて。
「つき、あって……なか、った……?」
理解が、追い付いていないようだ。
「俺は、冬人が【冬樹になる】っていうバカなことを止めさせようと思って、それであんなウソを吐いたんだ。だから、俺と冬樹はただの同居人だった」
「……それ、じゃあ。兄さんと、平兵衛さんは……?」
「つまり、だから……ッ。……性的関係は、なかった……ッ」
いつ言ったとしても、それなりの反応は覚悟していた。それでも俺は、冬人の肩に置いた手に、思わず力を込めてしまう。
──やはり、怖いものは怖いのだ。
──好きな相手から、確実に嫌われるかもしれないのだから。
体が、震えそうだった。
「結果的に──イヤ、どう言い訳しても、結局俺は冬人を騙していた。許してほしいなんて都合のいいことは思わない。……だけど、本当に悪かったと思ってる。すまなかった……ッ」
言うタイミングは今じゃなかったかもしれないと。もしかしたら、そう思う奴もいるかもしれない。
だけど、冬人に罪悪感を抱かせるなんてムリだ。理由はどうあれ、冬人からしたら【騙された上に犯された】のだから、そんなウソで冬人が罪悪感を抱くのは間違っている。
冬人の肩を掴んだまま、俺は必死に頭を下げた。
──怒るか。
──それとも、冬人は泣くか?
冬人の反応を、頭を下げたまま待つ。
……だが、しばらく待っても冬人はなにも言ってこない。
「……冬人?」
顔を上げて、冬人を見上げる。
そこに立っていた冬人は……。
「……っ!」
目元を真っ赤にして。
──だけどそれ以上に……顔を真っ赤にして、俺を見ていた。
目が合うと、慌てて口元を左手で隠される。その反応は、さすがに……っ。
──予想外。この一言に尽きる。
呆気に取られていると、真っ赤な顔をした冬人が突然。
「──こ、の……ッ!」
ブルブルと、震え始めた。
そして、俺の胸倉をガッシリと掴んできたではないか。
「わ、私はッ! 平兵衛さんがあんなことを言うからッ! だから、し……シた、んだぞッ!」
「分かってるッ、それは分かってるッ!」
「嘘吐きッ! 最低男ッ! このッ、ドヘンタイッ!」
「本当に悪かったッ! 後悔と反省は数えきれないくらいしたッ!」
──最後までヤッたんだから、冬人なら羞恥に耐え切れず、こういう反応になるのもあり得るか。
頭の片隅で、俺は思わず冷静に分析してしまった。
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