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第8話《Ⅱ章》凶悪な天使①
まるで空中で静止しているみたいだった。
その天使は……
跳躍する一瞬、両腕の翼が羽ばたいた。
床をバーンッと蹴る音が響いた一瞬。
世界が逆転する。
重力の束縛を逃れた天使の右手から振り下ろされたボールが、加速度を付けて回転する。
ボールが相手コートに突き刺さる。
一瞬の出来事だった。
グワンって……
いま。
(体育館、揺れた)
翼がコートを駆けて。
翼から振り下ろされたボールがコートを揺らして。
歓声で体育館が震えた。
(なに、これ?)
点を取りに行ったんじゃない。
掴みにいった。
もぎ取った。
コートに翻った翼は誰よりも貪欲で、そして……
凶悪な天使
「姫崎ッ」
誰かが俺の名前を呼んだ。
誰かじゃなくって、声は隣から飛んできた。
隣にいるのは……
「危なッ」
「ブオ!」
うそ……
なんで、こんなところにボールが??
ここ、二階なんだけど。
ボールって、こんなに高く飛ぶの〜!?
目の前に突如、出現したボールが視界を覆った。
(い……)
痛いィィィィ〜!!!
もしかして、俺。
(ボールを顔面で受けてる〜★)
「おい、一年。なにやってる」
「スイヤセーンっ!」
ペコリ
九十度にお辞儀して、笹原が慌てて起こしてくれた。
「保健室行こ」
小声で耳打ちした笹原に小さく頷く。
ううぅ〜、恥ずかしい。注目の的だ。試合も中断してしまってる。
おまけに顔も痛い。
少しだけ上げた顔に、チラリと影が映った。
ドキンッ
(天使と目が合った)
あっ……
俺、この人の大ホームランしたサーブが顔面ヒットしたんだ。
それでこの人、すごく申し訳なさそうな顔してるんだ。
スポーツ観戦で、ボールから目を離してしまった俺も悪いのに。
『先輩と俺の出逢いは最低だった』
「大丈夫?これ使って」
「うす。大佐和キャプテン、ありがとうございます」
(おおさわ、さんっていうのか)
天使はバレーボール部キャプテンなんだ。
笹原が受け取った冷却タオルをほっぺたに当ててくれる。
冷たくて気持ちいい。
「……ごめん。狙った」
…………………………狙った!?
(あの大ホームランサーブは、わざと俺に??)
初対面で面識もなくて、口もきいてないのに、サーブで狙われるって、どういうことォォォー★
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