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第10話《Ⅱ章》凶悪な天使③

 ウキャアァァァー!!なんでぇぇえーッ!! 「姫っ」  ガシイっと強い力が肩を掴んだ。 「……王子様」  どうして王子様がいるの? 「大丈夫?すごく、うなされてたみたいだけど」  …………………………ハッ!  そうだ。  俺、色々あって王子様のベッドに寝かされてたんだったー★ 「怖い夢見た?」  まさか怖い夢の元凶が、あなただなんて言えない。 「えっと……」 「よしよし」 「わっ」  小さく息を飲んでしまう。  突然大きな手が、おでこに降ってきた。 「怖いの、怖いの、飛んでけ〜」  少し汗ばんだ髪。先輩の指が梳いてくれる。ゆっくり、ゆっくり。  深呼吸するリズムで頭を大きな手が撫でる。 「あ、これ。痛いの、痛いの、飛んでけ〜……だっけ?ま、いっか」  怖いの、怖いの、飛んでけ〜  遠いお山へ飛んでけ〜 「あ、うちの学校、山の上だ。怖いの戻って来ちゃうな」  ププっ  変だ。先輩、すごく変な事で悩んでる。 「やっと笑った。もう怖くない?」  ……はい。  そう返事しようとした瞬間、夢の中の現実が鮮烈にフラッシュバックする。  同室になった先輩はとても優しくて、親切で、勉強の分からないところも教えてくれて。  これ面白いよ。って漫画も貸してくれて。  この人がルームメイトで本当良かったと思う。毎日が楽しくて、あったかい。  だけど、あの日。  練習試合で俺を狙ってサーブをしたのも先輩だ。 (どうして……) 「ごめん」 「ちがっ」  ハッとして息を飲んだ。  先輩の手が離れていく。  俺、さっき。  身構えてしまった。  ビクンッて体が震えた。  でもそれは先輩を嫌ったんじゃない。  あの日の事を思い出しただけで。 (嫌われるのが嫌だから聞けずにいる)  俺の事が嫌いで、でもルームメイトだから仕方なく波風が立たないように親切にしているのだったら、俺はずっとうわべだけの先輩を見ていたんだ。  うわべだけの気持ちでやり過ごしている先輩に憧れて、浮かれてたんだ。  俺ひとり (そんなの嫌だ……)  怖くて聞けないよ……

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