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第12話《Ⅱ章》凶悪な天使⑤
先輩は、俺の先輩でルームメイト。
ただちょっと、ほかの人より近くて、たまたま同じ部屋で生活している。
でも、それはたまたまの偶然だから、心の距離が近いかっていうと、そうではないかも知れない。
(先輩は皆に優しい)
俺だけが特別じゃない。
そんなの分かってる。
だけど……
そばにいると欲張りになってしまう。
心がそわそわする。
同室になった時はすごく緊張して、これから上手くやっていけるのか不安でいっぱいだった。
でも、不安はすぐ消えた。
先輩と一緒にいられる時間が楽しくて、優しい時間が流れて、毎日寝るまでの時間と起きて登校するまでの時間が楽しくて仕方ない。
毎日が待ち遠しくて、合宿で先輩がいない週末が訪れると切なかった。
だけど……
(こんなふうに感じているのは自分だけかも)
先輩は、上手くやっていくために演じてるのかもって、時々思ってしまう。
後輩に気を遣ってるだけなのかも知れない。
(俺だけ浮かれてるのかな)
自然と手がスクールバッグを手繰った。
いつも鞄に付けているお守り袋をそっと紐解く。
合宿先の近所に神社があったから……って。
『あの時は姫が応援してくれて、すごく力が出た。ありがとう』
県大会優勝の後の合宿で、先輩がお土産って渡してくれた。
『姫のお守り、これからも大事にするからね』
大会前に渡した必勝祈願のお守り、持っててくれて嬉しい。
お守りのお返しで、先輩から初めてもらったプレゼント。
胸がドキドキする。
(あっ)
これ、縁結びだ。
(縁結びっていったら、恋愛とか結婚だよね)
まだ高校生だし、結婚は早い。
恋愛の悩みを打ち明けた事はないし、そもそも恋愛してない。
先輩、間違えたのかな。
(先輩ちょっぴり、おっちょこちょい)
おっちょこ王子様。
クスリと笑いがついて出てしまった。先輩を起こしてしまわなかったかな。
先輩が眠った深夜、ふとお守りを眺めてたら、呪文が書いてあるのを発見したんだ。
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