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第13話《Ⅱ章》凶悪な天使⑥

 お守り袋の中から紙がはみ出ている。  そっと引っ張り出してみると、なになに…… 『呪文を唱えて願い事を心清らかに祈りましょう。恋愛成就のお狐様が願いを叶えて下さります。(御柱神社)』  恋愛成就のお狐様かぁ。 (会ってみたいな)  真夜中に童心をくすぐられて、ちょっぴりドキドキしてしまう。  真夜中だからなのかもしれない。  昼間だったら、こんなの信じないよ、俺。だって高1なんだから。  でも今なら…… (ちょっとだけ信じられる) 「えっと、呪文は……」  紙片を読書灯に近づけた。 『願い給え、叶え給え、御柱のお狐様来ン来ン(二拍手)』  最後の『来ン来ン』は、来て下さいの『来む来む』と、狐の鳴き声の『コンコン』を掛けてるんだな。  唱えるぞ。 「清め給え、叶え給え、御柱のお狐様来ン来ン」  ……ぱんぱん。 (先輩を起こすといけないから、拍手(かしわで)は心の中で)  これでいいのかな? 「あ、そうだ。願い事」  お狐様を呼んだのに、何も言わないのは失礼だ。きっと、この部屋のどこかで見てくれているよ。お狐様。 「えっと……」  少し迷って、ふうっと息を吐いた。  心は落ち着いた。 「大佐和先輩とデートがしたいです」  しんと静まり返った真夜中の部屋。  読書灯の淡い灯が、穏やかに藍色のお守り袋を見つめている。 「……なんてね」  大人になると照れ隠ししてしまう。こんなの最初から信じてなくて、ちょっと乗っかってみただけだ……って。  世間じゃまだ子どもだけど、高校生は背伸びする。  だから、ちょっと言ってみただけ…… 「寝よっと」  もう遅い。  明日、遅刻したら大変だ。  そうして静かに夜は更けて、まどろみの中に落ちていった。  すー、すー。  すー、すー。  日が昇って、そうしてまた穏やかな明日がやって来ると思っていた。 「姫、デートしよ」 「えっ」

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