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第34話《Ⅳ章》訪問者は突然に11

 理由は要らない。……のかも知れないけれど。  それでも、俺は教えてほしい。 (先輩には好きな人がいて)  好きな人との予行練習のデートをして。  俺は先輩の恋を応援する立場だ。 (じゃあ、抱っこも予行練習なんだろうか)  好きな人に、いつか先輩がしてあげるための……  俺はいつも『代わり』で、これからもずっと『代わり』。 (分かってる事なのに)  胸の奥がジンジン痛くて、喉を掴まれたように苦しい。 (分かってた筈なのに)  うぅん……  それも、もうすぐ終わり。  先輩は会長が好きで、会長は先輩が好き。  『代わり』の俺は要らなくなる。  そうしたら楽になれるのに、すごく苦しい。息、止まりそうなくらいに。  なのに先輩は、会長に脅されているっていうし。  先輩はお狐様の真似なんかするし。  もう訳が分からなくなってきた。  腕に抱えた真っ白い装束に顔を埋める。  先輩の狩衣の胸元をきゅっと握ったのは、たぶん気のせいだ。  俺は先輩なんか、好きじゃない。  もう好きじゃないから…… 「お主の心配するような事は何もないよ」  あなたはズルい。 (なんで、そんなこと言うの)  先輩が元凶で、先輩のせいでこんなにも苦しい思いをしているのに。 (あなたは卑怯だ)  そんなの全部分かってて。  それでもまだ先輩が好きで……  先輩の腕を振り切れなくて。  先輩の腕の中に甘んじている俺は、もっと卑怯だ……  先輩の気持ちは俺に向かなくっても。  今のこの温もりだけは欲しい、って思ってしまう。  俺だけのものにしたいって。  ひとり占めしたい、って思っている。  今だけ……  あともう少しだけ…… 「着いたぞ」  暖かくて苦いひと時は、終わりを告げた。  旧寮の窓。  明かりが灯っている。

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