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第37話《Ⅳ章》訪問者は突然に14

 鼓膜を突き抜けそうな静寂だった。  しん、と静まり返って耳が痛くなりそうな。  時間が部屋の外と中とで隔離されている。 (本当に誰もいない)  お狐様に化かされたのだろうか。  外から見た時には、明かりの中に人影が見えたけど。  この部屋には誰もいない。  自然と足が窓辺に向かう。 (人影が見えたのはこの窓だ)  たぶん、ここ……  ……やっぱり誰もいない。  見間違いだったのだろうか。ふとよぎった思いを振り払おうと、ブンブン頭を振った。 「見間違えるわけない」  強く思う。  不思議と。確証はないのに、なぜだか。  思いを形にしたくて、俺は一人呟いていた。  冷えた空気を切る唇に、応える声はどこにもない。そんなの分かりきってたのに。 「なぜ来たんだ」  頭上を掠めた声。 「どうして、ここに……」  振り返る暇もなかった。  俺の体は囚われている。  屈強な両腕に。

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