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第38話《Ⅴ章》雪①
誰?
俺を抱きしめているのは?
暖かくて、優しくて。
強くて、熱くて。
懐かしい香りが、厚い胸元に押し付けられた頬を包んだ。
知っている……
青葉のように繊細で瑞々しくて、強くて、柔らかな。そんな香り。
春風が不意に吹いた。
俺達が巡り会った季節は、春。
分かってしまったよ。
俺には、もう……
ねぇ、
「先輩はどうして、こんな格好してるの?」
顔は見えない。
胸の奥がトクトク音を立てている。心音が響いてくる。
俺の頬に当たっているのは制服じゃない。
触り心地のいい上質なスーツだ。
「姫が来ると思わなかったから」
「答えになってません」
「そうだね」
吐息が髪を撫でた。
声だけが静かに降り注ぐ。
春に降る雪のように。
真綿のように、柔らかにそっと優しく。
淡く解けた。
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