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第39話《Ⅴ章》雪②
ぎゅっと抱きしめられている。
両腕が俺を抱きしめている。
先輩の腕の中、身動きできない。
「どっちも本当の俺だ」
声だけが静かに舞い降りる。
「制服の俺も、スーツの俺も」
しんしんと。
「偽物じゃない」
雪は静かに降り積もる。
「じゃあ、先輩はどうして今スーツを……」
そうじゃない。
聞きたい事は。
「俺を抱きしめているんですか」
心臓がドキドキしている。張り裂けそうだ。
「分かり切ったこと聞かないでほしいな」
「全然分かりません」
「興味のない人に、こんな事する男だと思ってるのかい」
「でもっ」
でも。
「……デート期間は終わりました」
言葉が胸を突き刺す。自分で言っておいて、言葉が自分に返ってくる。
先輩の俺はもう、ただの先輩後輩でルームメイトなだけ。
「終わってない。終了だと言った覚えはないよ」
「でもっ」
訳が分からない。
好きな人ができて、俺はその人のデートの代役で。
先輩が好きなのは星野会長だ。
お狐様の振りして俺を騙して。
デートが終わらないというのなら、俺はずっと会長の代役をしなけりゃいけないのか。
これからも、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと。
俺は『代役』。
「俺は好きな人を作っちゃいけないんですかッ!」
『代役』なんか、嫌だ……
「君は……」
声が凍りついた。
「好きな人なんか作るな」
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