40 / 78

第40話《Ⅴ章》雪③

 そんなの理不尽だ。 (俺だけ、誰も好きになっちゃいけないなんて)  先輩は会長が好きなのに。  俺は好きになっちゃいけない。  ずっと、これからも。ずっと、ずっと、ずっと。 (こんなにも先輩が好きなのに)  先輩は「好きになるな」って言った。  俺の気持ちを否定し、拒み、俺は先輩を好きになっちゃいけない。そう言った。  ずっと、ずっと、ずっと、先輩を想う事すら許されない。  悲しくて、胸が痛くて、苦しくて、張り裂けそうで。でも、この感情すらあなたは奪う。  獰猛なキスが唇を奪い、呼吸を奪う。  頭の中の思考、白い霞が掻き消していく。真っ白になって何も考えられない。  舌が差し込まれて、ねじ込まれて、舌の根元から絡めとっていく。  ハァハァハァハァ 「もっと舌出して」  その声だけが脳裏に届いた。 「そうだ……いい子」  クシャリと髪を撫でられて、舌をクチュリと啄まれてクチュクチュ、卑猥な水音を奏でている。  先輩と俺と唾液が絡み合って、深く熱く濡れた音を奏でる。  舌と舌が絡み合い、絡め合って、息ができない。  ハフハフ  呼吸すら持っていかれる。  全部あなたに。  息の一雫すらあなたに、何もかも。  飲み込めない唾液が口の端を伝う。  それでも、あなたはやめてくれない。  必死でしがみつく。あなたの上質なスーツの襟元がクシャクシャになっても。  あなたは離さない。  唇を貪り合う。貪り尽くす。  獰猛で熱く、切なく……  こんなにも求めてくれているのに、あなたの心はどこにあるの?  どんなに手を伸ばしても。  どんなに掴んでも。  汗ばんだ手で、襟がクシャクシャになるまで掴んでも。  あなたには、届かない。  悲しくて、なのに瞼から零れ落ちた雫は、悲しみの涙なのか、悦楽の涙なのか分からないんだ。  分からないくらい、何も考えられなくなった俺……  あなたの熱を享受する。 「姫は俺を置いて、好きな人を作るんだね……」  ねぇ、先輩。なにか言った?  熱い吐息にまみれた声はもう、俺に届かない。

ともだちにシェアしよう!