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第40話《Ⅴ章》雪③
そんなの理不尽だ。
(俺だけ、誰も好きになっちゃいけないなんて)
先輩は会長が好きなのに。
俺は好きになっちゃいけない。
ずっと、これからも。ずっと、ずっと、ずっと。
(こんなにも先輩が好きなのに)
先輩は「好きになるな」って言った。
俺の気持ちを否定し、拒み、俺は先輩を好きになっちゃいけない。そう言った。
ずっと、ずっと、ずっと、先輩を想う事すら許されない。
悲しくて、胸が痛くて、苦しくて、張り裂けそうで。でも、この感情すらあなたは奪う。
獰猛なキスが唇を奪い、呼吸を奪う。
頭の中の思考、白い霞が掻き消していく。真っ白になって何も考えられない。
舌が差し込まれて、ねじ込まれて、舌の根元から絡めとっていく。
ハァハァハァハァ
「もっと舌出して」
その声だけが脳裏に届いた。
「そうだ……いい子」
クシャリと髪を撫でられて、舌をクチュリと啄まれてクチュクチュ、卑猥な水音を奏でている。
先輩と俺と唾液が絡み合って、深く熱く濡れた音を奏でる。
舌と舌が絡み合い、絡め合って、息ができない。
ハフハフ
呼吸すら持っていかれる。
全部あなたに。
息の一雫すらあなたに、何もかも。
飲み込めない唾液が口の端を伝う。
それでも、あなたはやめてくれない。
必死でしがみつく。あなたの上質なスーツの襟元がクシャクシャになっても。
あなたは離さない。
唇を貪り合う。貪り尽くす。
獰猛で熱く、切なく……
こんなにも求めてくれているのに、あなたの心はどこにあるの?
どんなに手を伸ばしても。
どんなに掴んでも。
汗ばんだ手で、襟がクシャクシャになるまで掴んでも。
あなたには、届かない。
悲しくて、なのに瞼から零れ落ちた雫は、悲しみの涙なのか、悦楽の涙なのか分からないんだ。
分からないくらい、何も考えられなくなった俺……
あなたの熱を享受する。
「姫は俺を置いて、好きな人を作るんだね……」
ねぇ、先輩。なにか言った?
熱い吐息にまみれた声はもう、俺に届かない。
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