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第50話《Ⅷ章》無敵の王子様②
先輩……
なんて?
「なんて言ったの?」
聞いてる場合じゃない。なのに、勝手に声が出ていた。
(もう一度、聞きたい)
先輩は俺の……
「後で何度も言ったげる。今はこいつを片付けるのが先だよ」
「なめるなよ、クソガキィッ」
黒服が走る。屈強な腕が振り上がる。
相手は大人だ。幾らバレーで鍛えているといっても先輩は高校生。
体がまだできていない。無茶だ!
「逃げて!」
成人の男性に高校生が腕力でかなう筈ない。
「無茶は承知。姫を置いて逃げる程、俺はクズじゃない」
「でも」
「だから」
不意に口角が吊り上がった。意図的に。
「守れるのは俺だけだって思ってる」
ドキンッ
藍の瞳が鼓動を射抜いた。
「無茶をしても守りたいって思うほど、姫が大切だ」
卑怯なくらいカッコよくて。
こんな時ですら、俺を虜にしてしまうくらい誠実で。
ズルい。
「けれど高校生だから、武器の使用のハンデは認めてね」
ヒュンッ
扉の向こう側から飛んできた何か。
先輩が華麗にキャッチした。
(ドアの向こうに誰かいるの?)
そんな事よりも。
先輩の受け取った物って!?
ヒュンッ
長いソレが空を切る。
(こんなの全然武器じゃない!)
だって。
これは……
ヒュンッ
「モップだァ!」
何の変哲もない床掃除のモップ。
「俺、バレー部の三年間、体育館のモップ掛けは欠かした事ないよ」
先輩のモップが空を切る度、男が後退る。
ヒュンヒュンッ
先輩が大人を圧倒している。なぜ?
モップを振り回しているだけなのに。
(違う)
闇雲に振り回してるんじゃない。男が踏み込もうとする位置を予め予測して、そこへモップを振り下ろしているんだ。
「次は……そこかな」
ヒュンッ
鋭い柄が黒服の虚を突く。後ろに下がった瞬間に飛んできたモップに男のバランスが崩れた。
「ナメるなよ!クソがァッ」
踏みとどまった男が拳で反撃に出る。すかさずモップの柄で突く。
よけた。
みぞおちを狙ったモップだが、ひとたびかわされると大振りが災いする。次の一手が間に合わない。
「先輩!」
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