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第52話《Ⅷ章》無敵の王子様④
「わわっ」
先輩を引っ張り起こすつもりが……
すとん
逆に先輩の膝の上に落ちてしまった。
俺って、こんなに腕力なかったのか。
「ごめんなさ……」
「無事で良かった。ほんとうに」
ぎゅっ
強く、きつく抱きしめられる。痛いくらい。
声が震えていた。
コートではあんなに強い王子様が。
「俺も!」
ぎゅっ
「もう先輩に会えないかもって思って怖かったです」
ぱっと目を見開いて先輩がビックリしてる。俺から抱きしめるなんて思ってなかったんだ。たぶん。
だから精一杯、優しく微笑んだ。先輩みたいに綺麗に笑えないけど。
あったかい。
先輩の体温、心地良い。
鼓動も。
瞼を閉じるとトクトク、トクトク聞こえてくる。少し早いのは気のせいかな。
俺の鼓動の方がきっと速い。
ずっと、ずっと、こうしていたい。
叶う事ならば、ずっと、ずっと、ずっと……
トクトク奏でる暖かな鼓動を聞きながら、温もりに包まれていたい。
羽を寄せるように。
かけがえのない柔らかな温もりに。
「姫、大事な話があるんだ」
「俺もです」
同じタイミングで話しかけられた俺は幸せだ。
ガラスの中、砂時計の砂は滑り落ちる。
留まる事はない。
少しずつ鼓動が冷えていく。
肩を寄せ合って、肌を寄せても。時間はもう止まらない。
だからせめて、この幸せな時間を先輩と同じタイミングで止められるのなら幸福だと思う。
恋人ごっこは、もう終わり
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