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第54話《Ⅷ章》無敵の王子様⑥

 まるで水を打ったかのように。  しんと静まり返った。  黒服の男が声だけで怯えている。  聞こえたのは扉の向こう。でも、お狐様じゃない。  白い着物のお狐様の更に後ろに彼はいる。 「彼から離れて膝をつけ」  カチリ  冷えた金属の音が響いた。 「命令だ」  微かな声が落ちて、項垂れた男が埃臭い床に膝をついた。  大人を従わせる光景は当然と言えば当然で、しかしとてつもない違和感を拭えない。 「会長!」  思わず俺は飛び出していた。 「そんな物、捨てて下さい!」  右手が握っているのは、冷たい鉄の機械。  拳銃だ。  会長がなぜ、そんな物を?  黒服の仲間から偶然奪ったのだろうか。けれどそれは簡単に人を殺せる道具だ。大人相手とはいっても、幾ら何でもやり過ぎだ。  高校生が触っていい物じゃない。 「なぜ?」  ……なぜ、って。  会長はどうして、そんな事を言うんだろう。 「危ないです」 (そもそもどうして、会長がこんな所にいるのだろう)  ここは使われていない旧寮だ。  だんだんと背筋が冷たくなっていくのを感じた。 「これは僕の物だよ」

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