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第56話《Ⅸ章》冷たい瞳の彼②

 足音はゆっくり近づいてくる。  カツン、カツン  俺に向かってくる。  手には拳銃。  銃口の黒い穴が俺を見つめている。 「姫!」  背後からお狐様が体当たりを仕掛けるけれど。  バシンッ 「動かない方が身のためだ」  かわした腕が上から叩きつける。  床の上から顔を歪めてお狐様が見上げる。武道の心得があるのか、会長の一発ですぐに立ち上がれない。 「待たせたね、姫崎君」  カツン  靴音が止まった。  普通の高校生で、取り柄もない。  俺に価値なんてないのに会長の狙いは俺だ。 「怖い顔をしないでおくれ」 「あなたが酷い事をするからでしょう」 「彼が抵抗するからだ」 「そうしなければならない状況を作ったのは、あなたです」  会長はお狐様を殴った。  先輩だって巻き込まれている。 「そうだな」  フッと小さく息を吐いた。 「君に詫びよう」  カチャリ  硬質の金属音が響いた。 「会……長……」  静かな双眼が見上げている。それは俺よりも視線が低くなったから。 「怖い思いをさせてしまったね。すまなかった」  床に拳銃が横たわる。  まるで繊細な硝子細工にでも触れるかのように、彼は俺の手を取りそっと口づけた。  チュッ 「かかかっ!」  カカカァァァァーッ 「会長ーーーッ!!」

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