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第69話《ⅩⅠ章》先輩と会長⑥
あり得ない……
ありえないよ……
「それじゃあ」
まるで。
「先輩が俺の事、好きみたい……」
「好きになっちゃいけないの?」
声が優しく包んでくる。
まるで心臓に直接触れてくるのように、そっと、静かに、穏やかに。
なのに俺の心臓はドキドキ、バクバク、音を立てて、壊れそうなくらい拍動している。
「でもっ」
「でも?」
見つめる瞳に吸い込まれそうになりながら、必死に言葉を探す。
「先輩には好きな人がいて……」
……鼓動が冷たい息を奏でた。
俺は、その好きな人の代わり。
デートは……
「予行演習だったんでしょう」
俺は『代わりの人』。
先輩には好きな人がいる。シミュレーションのデート相手。ただ、それだけ。
それだけで……
先輩の好きな人は目の前にいる。
(星野会長だ)
もしも俺の知らないところで二人に何かあって、先輩が会長と喧嘩して、当てつけに俺を……会長に見せつけてるんなら。
「酷いです」
「ヒメ?」
「俺はデートのシミュレーションには付き合います。うぅん、付き合いたかった。でもっ」
でも……
「好きな人と両想いになるための当てつけは嫌です……」
そんなの……
「そんな契約は、俺……」
声がすり潰される。
喉の根っこで。声が出ない。言葉が出ない。喉が見えない何かに押し潰される。苦しい。
苦しくて、じわりと瞼の裏が熱くなる。
でも。苦しいのは喉の奥の痛みのせいじゃない。
胸が締めつけられて、苦しい。
心が痛いよ……
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