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第70話《ⅩⅠ章》先輩と会長⑦
俺、かっこ悪い。
なんで震えてるんだよ。
喉の奥をめいいっぱい開こうとしても、凍えた息が微かに出るだけだ。
声が出ない。
これじゃあ……
こんなんじゃ……
慰めてほしいって言ってるようなものだ。
誰に?
先輩を責めておいて、先輩に慰めて……って、そんなの俺が傷ついて先輩も傷つける。
自分が惨めになるだけだ。
これ以上、先輩に何を望むんだ。
何をさせたいんだ……
「姫……」
「ごめんなさい」
なに誤ってるん謝ってるんだよ。今更、俺……
自分は悪くないから、自分は正しいから。
(だからっ)
先輩を責めた癖に。
今更いい者ぶるなんて、俺は卑怯だ。
「姫……」
どうしてなんで……
「俺を見て」
そんなに優しい声で、あなたは。
(俺の心を波立たせるの)
俺はあなたに酷い事をしているのに。
「もう泣かないで」
あなたはどうして優しいの?
「誰がそんな事言ったの?誰が誰に当てつけるの?」
「そんなの。先輩が一番分かってるくせに……」
「分からない。姫は誤解しているよ」
もう……
声が痛い。
途切れて、途切れて、繋ぎ合わせて、やっと出した声が自身の胸を突き刺す。
「やめて下さい」
俺が惨めになるだけだ。
こんな事なら先輩と会長の愛のキューピッドになって、笑顔で取りもって、後で独り部屋で泣いていた方がマシだった。
「やめないよ、姫が俺を見てくれるまでは」
「でも」
もう見たくない。
あなたの顔は見られない。
こんな俺を見ないでほしい。
ずるくて卑怯な俺なんか。だったらずっと、ずるくて卑怯な笑顔の仮面を被ってあなたのそばにいたかったよ。
でも、もう叶わない……
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