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白昼夢

ピ・・ピ・・ピ・・・ 電子音が鳴り響き、バタバタと走る足音が聞こえる 『先生、お願いします』 『血圧計って』 白衣を着た男性が言うと、周りにいた看護師たちが慌ただしく動き出す ー俺はどうなっているんだ?ー 自分が今どういう状況なのか分からない 『・・・分かりますか?・・処置しますから服切りますね』 耳元で声がするが、声を出すことも体を動かすこともできない ーなんだ?ー 『ライン確保しました』 『血液クロスチェックして!』 周りの声が頭に響く 『雨宮さん、聞こえますか?・・血圧計りますね』 腕を掴まれる感覚はあるが、自分で動かすことはできない いや、それだけじゃない ー眩しいー 眩しくて、目を開けられない 眩しさを我慢して目を開けてみたが、ぼやけて何も見えなかった 『バイタルは?』 『脈拍120、血圧53の115です』 何を言っているんだろう これは夢だろうか 朦朧とする意識のなか、不意に声が頭に響いた ――(しゅん)――― 聞き覚えのある声だ だが、その声が誰なのか分からない ――迎えに来たよ―― そう言って、俺に手をふる姿が見えているはずなのに顔が分からない 眩しくて目を開けていられない ー誰だったかな・・ー 『念のためにCTスキャンも撮ろう・・連絡して』 『分かりました』 またガタガタと騒がしくなる 『雨宮(あまみや)さん、聞こえますか?雨宮准さん!』 誰かが俺の肩を掴み左右に揺らす 『動かしますからね』 ー五月蠅いな・・聞こえてるよー 少し、静かにしてくれよ もう少しで思い出せそうなんだ ガラガラと動く音が聞こえる その音は徐々に雨がアスファルトに叩きつけられる音に変わっていく ーそうだ、雨が降っていたんだ・・ 雨が降ってきて 俺は彼女を待っていたんだ ー准、雨が凄いねー 彼女は柔らかな笑みを浮かべて 俺を見つけて車の窓を開け手を降る ―早く乗って!濡れちゃうわ― ああ・・そうだ。君だ。 ―早く・・帰りましょう― そうだね・・早く帰ろう 今日は・・俺が夕飯作る番だろ? 今日は俺の得意料理を作ってやるから だから・・早く・・ 早く帰ろう 白くぼやけた視界のなか、車は走り出す 俺は助手席に乗りスマホで今日作る予定の料理のレシピを調べる ーねえ・・私、あなたに話したいことがあるのー え?急に改まってどうしたんだよ ―准、私ね― そう言って彼女は悲しそうな顔をして 俺が、どうしたんだと彼女を見た時 ーあ!!ー 次の瞬間、目の前が真っ白になった 「危ない!」 彼女の叫び声を最後に視界が大きく揺れ動き そして、真っ白の世界は光を失い真っ暗な闇になった 彼女の姿も声も何もない ただの闇の世界に俺は落ちていった ・ 「はっ!!」 不意に、誰かの叫び声が響き目が覚めた。 「あ・・れ?」 最初に視界に入ってきた白い天井。 見覚えのない天井に眉をしかめる。 (ここは・・どこだろう) ベッドに寝かされているようだが、自分がどういう状況なのか分からなかった。 「・・ここは」 ここがどこなのか、考えようとするが頭の中に靄がかかったようひハッキリしない。 ふと、顔を横に向けると 「っ!」 ベッドの横に座っている人影にビクッと体が跳ねた。 「誰?」 一気に鼓動が早くなるのを感じ胸を押さえながら起き上がった。 よく見ると、そこにいたのは男性だった。 風貌を見ると若い男のようだ。胸の前で腕組みをして下を向いている。 綺麗に借り上げられた後ろ髪だが、前髪は長く垂れ下がって顔はよく見えない。 組まれた腕は白いシャツを肘辺りまで捲っていて、細いが筋肉が浮き出ていた。 「・・・・」 知らない男だと思った。 サラサラの髪が窓から差し込む光に反射して光っている。 それが、綺麗だと思い、身を乗り出して彼の顔を見ようとした。 眠っているのだろうか 顔を覗き混むと目を瞑り、ふっくらした唇は少し開いていた。 「ふう、すう」 耳を済ますと寝息が聞こえる。 (・・綺麗な・・人だな・・) 光を浴びて・・まるで天使のようだと思ったその時 「ん・・・っ・・」 その目が、ピクッと動いた。 「あ・・・」 起きてしまうと思い短く声を出してしまった瞬間 「っ・・え?・・う・・嘘!」 男の目が大きく見開いた。 (ああ・・やっぱり・・綺麗だ) 黒い瞳を見て、そう思った。

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